■待ちに待った劇場版公開
――そして迎えた1981年3月14日土曜日。テレビアニメ『ガンダム』の最終回から約1年後、ついに映画が公開となります。
一応説明しておきますと、当時のアニメ映画事情は今とかなり異なります。まず公開初日の多くは、現在の金曜日ではなく「土曜日」。この時代にチケットのオンライン販売などあるはずもなく、ほとんどの場合、映画館で直接「当日券」や「前売り券」を購入するしかありません。そのうえ鑑賞できるのも、基本的には“前売り券に記載”された映画館のみでした。
1981年1月から、全国の劇場で『機動戦士ガンダム』鑑賞券が発売開始。運よく友だちのお母さんが仕事帰りに買ってきてくれたのですが、その前売り券を購入する大行列ができていたと聞きました。
そして、ワクワクしながら公開を心待ちにし、やっと訪れた春休み。当時、中学生になっていた私は、映画を観るために新宿に行く親の許可を得ました。それが私にとっては初めての“大人がいない”映画鑑賞。中学生になってから新たにできた2人のアニメ好きの友だちと一緒に出掛けましたが、混雑する山手線は危ないと親に心配され、ちょっと私鉄で遠回りしながら新宿に到着。
前売り券に書かれた「新宿松竹(現・新宿ピカデリー)」に着くと、想像以上に長い行列ができていました。
この日、自分なりに目いっぱいオシャレをしてきた私は、行列に疲れてもスカートだから座れません。トイレも心配だし、映画を楽しみにすると同時に、少しだけ不安な気持ちになりました。
そんな私の不安を払拭してくれたのが、少し前に並んでいた年上のお姉さんたち。もしかしたら高校生くらいだったのかもしれませんが、当時の私には十分大人に見えた2人の女性が、楽しそうにガンダムの話をしていたのです。
そんなお姉さんたちのカバンには、手づくりと思われる「シャア」と「ガルマ」のフエルトマスコットがついていました。
「それ、シャアとガルマですよね?」
念願のガンダム映画を前に“ハイ”になっていた私は、思わず話しかけてしまいました。すると、本で見たのをマネして自作したとのこと。さらには、自分たちで作ったという漫画やアニメの会報まで見せてもらい、自分たちの知らないアニメ好きの世界を生きているお姉さんたちの話に夢中になっていました。
当時の私がアニメの話をできるのは学校のごく少数の友人だけ。ところがこのお姉さんたちは、私の知らない集会(おそらくは同人誌イベント)や上映会など、私にとって“未知の世界”を教えてくれたのです。
初めて出会った人……それも私にすれば“大人の女性”と、大好きな『ガンダム』や『009』の話ができたことに、今まで経験したことのない興奮と充実感を覚えました。
私が話したお姉さんたち以外にも、その日列に並んでいたのは、年上のお兄さんやお姉さん、さらにはヒゲを生やした男性まで、ほとんど大人ばかり。自分たちみたいなアニメファンの女の子がたくさんいると思っていたので、これは大きな衝撃でした。


