
3月は別れと旅立ちの季節。なかでも卒業式は、新たな門出と惜別が交差する、人生の大きな節目のひとつだ。学校を舞台にしたアニメ作品では、卒業式での先輩や同級生たちとの別れが描かれることも多く、涙なくして見られない名シーンと評されることも多々ある。
特に、オープニングや作中で「桜」が描かれることが多い京都アニメーション(京アニ)の作品は、これら「卒業式」「入学式」の神回の宝庫であり、多くの視聴者の心を揺さぶってきた。
そこで今回は、卒業シーズンの今、京アニの人気シリーズである『けいおん!』『響け!ユーフォニアム』『CLANNAD』の卒業エピソードを振り返り、それぞれの作品が描いた“旅立ち”の瞬間を見ていきたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■梓に送る高校最後の演奏『けいおん!』
かきふらい氏の4コマ漫画をアニメ化、私立桜が丘女子高等学校の軽音部の日々を描いた『けいおん!』。2009年4月から京アニによってアニメが制作されており、2010年4月から放送された第2期24話「卒業式!」では、ヒロイン・平沢唯をはじめとする3年生4人の卒業が描かれた。
思い返せば、第1期第1話で描かれた、唯の入学式当日の朝から始まった『けいおん!』の物語。高校3年間の青春をまるごと見届けた視聴者にとって、卒業式エピソードは感動せざるを得ないものだろう。ただ、当の唯たちは涙を見せることはない。いつも通り騒がしくも飄々としている。それもまた、彼女たちらしい姿だ。
一方、軽音部唯一の在校生である2年生・中野梓はそうではない。式当日も4人の卒業の実感が沸かないのかどこか上の空。式が終わり、音楽室に集まっても実感が沸かない。しかし、いつも通りソファーに置かれる4人の鞄の横に自分の鞄を置こうとした梓は、そこに卒業証書入れを見つける……。そこでついに4人の卒業を受け入れ、感情があふれ出してしまうのだった。
「卒業しないでください」と涙を流す梓。そんな彼女に唯たち4人は『天使にふれたよ!』の演奏をプレゼントする。「卒業は終わりじゃない これからも仲間だから」という歌詞が温かい。
そして演奏が終わり、拍手とともに梓は「……あんまりうまくないですね!」とつぶやく。手厳しい感想だったが、これは1期1話で、唯が3人の演奏『翼をください』を聴いたときの感想とまったく同じ。そんなやり取りからも5人の繋がりを感じる。
そして、唯の「私たちの曲、聴いてくれる!?」の言葉とともに、ひらがなで『おしまい』の文字。日常の小さな瞬間を積み重ねて描くことで、視聴者を作品世界に引き込む京アニ作品。だからこそ、その日常の終わりである卒業式回では、梓たちとともに深い喪失感や感動を味わってしまう。『けいおん!』のラストにふさわしい爽やかで切ない卒業式エピソードだ。
■吹奏楽部の絆と涙の卒業『響け!ユーフォニアム2』
武田綾乃氏による同名小説を原作に、2015年4月から京アニによってアニメ化された『響け!ユーフォニアム』。その2期最終13話「はるさきエピローグ」では、全国大会を目指してともに努力した北宇治高校吹奏楽部の3年生たちが、部を引退し卒業を迎えるエピソードが描かれた。
卒部会では、1・2年生が卒業する3年生に向けて『三日月の舞』を演奏する。この楽曲は、吹奏楽コンクールで北宇治高校が自由曲として選んだ特別なもの。トランペットのソロパートをめぐって、1年生の高坂麗奈と3年生・中世古香織が再オーディションで競い合った楽曲で、主人公・黄前久美子も、後半のテクニカルな演奏についていけず、一時はメンバーから外され挫折を経験した。衝突や葛藤を繰り返しながらも成長してきた吹奏楽部の軌跡が、演奏とともに鮮やかに蘇っていくようだった。
そしてあらためて卒業式、それぞれの別れを惜しむ中、久美子は副部長であり同じユーフォニアム奏者である田中あすかの姿を追い、思わず走り出す。飄々とし本心を見せないあすかに、ずっと苦手意識を抱いていたはずの久美子だったが、いざ卒業式を迎えると彼女がいかにかけがえのない存在だったのか気づく。そしてあすかを見つけ、涙をあふれさせてしまう。
「あすか先輩みたいなユーフォが吹きたいです!」という久美子に、あすかは一冊のノートを手渡す。それは、幼い頃に別れた著名ユーフォニアム奏者である父が残したノート。その大切なノートを久美子に託したあすかにも、伝えたい想いがあったに違いない。だが、彼女は「またね!」と最後まで明るく去っていく。先輩らしさを最後まで崩さない、清々しい別れだ。
そして物語は『響け!ユーフォニアム3』へ。吹奏楽部の想いは次の世代へと受け継がれていく。