
90年代に衝撃をもたらした野島伸司氏脚本のドラマ『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(TBS系)を覚えているだろうか。放送は1994年で、いじめ、体罰、殺人という重い題材に真正面から挑んだ作品だ。
野島氏の作品は重い物語が多かったが、同作もその一つ。KinKi Kidsの共演は話題を集めたものの、内容が過激だとクレームが入るほど評価は厳しかった。だが、そんな声に反して視聴率は上がり、最終回では瞬間最高視聴率28.9%を記録している。
90年代には『ぼくらの勇気 未満都市』、『若葉のころ』など、KinKi Kidsの2人が出演した貴重な名作があるが、同作も2人の歴史を振り返るうえで欠かせないドラマのひとつだ。あまりにも辛いストーリーで鬱々とした雰囲気が全編を覆うものの、考えさせられる点が多いのも見どころだろう。
ただ、残念ながら現在では、ほとんど再放送されない「視聴困難」な作品となってしまっている。今回は、そんな『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』を振り返る。
※本記事は作品の内容を含みます
■令和では間違いなく放送禁止?辛すぎる描写の数々
主人公は、後妻の夏美(横山めぐみさん)と息子の誠(堂本剛さん)と暮らす大場衛(赤井英和さん)。衛は頑固で気性が荒いものの誠を愛しており、その愛情を受けた誠は温厚で正義感が強く、そのうえ秀才という完璧な子に育っていた。物語は、一家が神戸から東京へ引っ越し、誠が修和学園中等部に編入するところから始まる。
クラスでは、武藤和彦(黒田勇樹さん)へのいじめやうさぎ殺しなどの問題が起こっていた。その中で誠は影山留加(堂本光一さん)と友人になるも、彼も不安定で裏の顔を持つ人物だった。
そんな折、誠は和彦へのいじめを止めるように訴えたことで次の標的となる。縛り付けてロッカーに入れるなどいじめられるのに加え、体育教師・宮崎信一(斎藤洋介さん)からも体罰を受け、留加に想いを寄せる社会科教師・新見悦男(加勢大周さん)に恨まれるというさらなる悲劇が誠を襲う。
宮崎の体罰も犯罪レベルだが、周囲の人々を操って誠を陥れていく新見はさらに非道だった。熱心な教師の顔をしながらもその素顔は陰湿で、彼の暗躍によって、唯一誠を理解しようとした担任教師・森田千尋(桜井幸子さん)も本質に辿りつけず。ついには衛まで誠を否定して暴力を振るい、追い詰められた誠の心はついに壊れてしまう。
急展開を迎える中盤。衛は不登校になった誠に神戸に戻ろうと提案し、それを聞いた誠は初めて涙を流す。ついに、親子の心が通じた瞬間だ。しかし、父の借金を気にする心優しい誠は、わかりあえた喜びを胸に再び学校へと向かう。そして、直後にいじめがピークを迎え、誠は屋上から落ちて命を落としてしまうのだった……。
当時子どもだった筆者は、生々しいいじめと体罰の描写が頭から離れなくなるほどショックを受けた。親になった今見直すと、一人で凄惨ないじめに耐える誠がたまらなく切ない。もっと早く父から守られていれば、信じてあげていれば……と思ってしまう。