■黒い騎士は存在した⁉ ベルナール・シャトレ

 ベルナール・シャトレは、作中で正義感あふれるジャーナリストとして描かれた人物だ。それと同時に貴族から盗みを働く「黒い騎士」という裏の顔も持っていた。さらにオスカルが貴族としての生き方やフランスのあり方に疑問を持つきっかけを作った、重要な人物である。

 そんなベルナールは、革命派のジャーナリストで政治家のカミーユ・デムーランがモデルといわれている。黒い騎士として活動した事実はないが、1789年7月にパレ・ロワイヤルで“武器を取れ”と演説し、パリ市民の決起を促したという逸話がある。

 その後も彼は革命を推進するパンフレットを刊行するなど積極的に活動し、革命の進展に影響を与え続けた。

 しかし1790年代に入ると恐怖政治に疑問を抱くようになり、ともに活動していたロベスピエールの方針に疑問を持ち始める。その後、公安委員会などを批判する記事を執筆して寛容政策を主張したが、これが反革命の疑いを招くこととなった。

 その結果、1794年に逮捕され処刑されてしまう。カミーユは処刑に向かう道中でも観衆に向かって叫び続けたと言われており、妻・リュシルも夫の死から約1週間後に処刑されるという悲劇的な結末を迎えている。

 仮にこの事実が漫画でも描かれていたら、カミーユことベルナールはアントワネットと同じように断頭台で処刑されてしまい、妻であるロザリーも同じ運命を辿っていたのだろう。

 そう考えると、黒い騎士として暗躍するなどの創作的な要素を加えた漫画のストーリーは、私たちに救いのある結末を与えてくれている。

 

 今回紹介した3人の史実における最期は、いずれも民衆による暴行や処刑など、悲劇的なものばかりだ。

 フランス革命という言葉はときに華々しく響くこともあるが、実際には悲劇が連鎖する激動の時代だったことがわかる。『ベルサイユのばら』は、そんな歴史の残酷さとともに、人々が懸命に生きた姿を伝えてくれる貴重な作品である。

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