■アムロを超える撃墜数の真相は

 テネスのモビルスーツ撃墜数はアムロを上回る149機となっているが、先述の通り無抵抗、もしくは地上戦仕様のまま宇宙に逃げ延びてきた機体も撃墜数に数多く含まれている。

 またドロス級空母を撃沈したことで艦内に搭載されていたモビルスーツまで撃墜数にカウントされているようで、撃墜数の信憑性については「かなり怪しい」と言わざるをえない。

 そもそもドロス級空母は仲間との共同撃墜であり、それを除くとテネス個人の記録は52機、証拠不十分な未認定戦果が6機とされている。連邦軍の撃墜数は自己申告制であり、テネスの場合は149機のうちの大部分が自己申告によるものだった。

 もちろんテネスのパイロットとしての腕が一級品であることに疑う余地はないが、その撃墜数の裏づけが取れていないのも事実。一方、『機動戦士ガンダム公式百科事典』(講談社)によれば、アムロの撃墜数は僚機に確認されているケースが多かったとされている。

 こういった経緯を踏まえてテネスは、「元民間人であるアムロをトップエースとはしたくなかった連邦軍のプロパガンダに利用された」という説もささやかれた。

■幻のトップエースの「その後」を考察

 アムロを超えるトップエースとなったテネスは、一年戦争の後どうなったのだろうか。一年戦争後に行われたジオンの残党狩りに参加していたようなので、順当に考えればアースノイドだけのエリート部隊「ティターンズ」に加入し、その後は「グリプス戦役」にも参加したと考えるのが自然だろう。

 しかし「テネス・A・ユング」はトップエースにもかかわらず、その後の歴史には不自然なほど名前が出てこない。生存して現役を退いたのであれば、後進のパイロット育成に携わったり、軍の高官になっていたりしそうなものだが不思議である。

 また、ひとつの可能性として、連邦が仕立て上げた「アムロを超えるトップエース」というプロパガンダを受け入れることで、軍を退役後は富を持ち帰って口をつぐみ、ひっそりと幸せに暮らした可能性もありそうだ。


 「アムロを超える撃墜数」というインパクトは強烈だが、「テネス・A・ユング」なる人物の名前を表舞台で見かけることはあまりない。元をたどれば非公認の設定本で誕生した人物かもしれないが、ガンプラにも「ジム・スナイパーカスタム(テネス・A・ユング機)」が発売されるなど、現在はれっきとした公式キャラのひとりである。こういった謎に包まれたエースが存在するあたりも、ガンダムシリーズの懐の深さと言えそうだ。

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