
長谷川町子さんの漫画を原作に、1969年からアニメ放送が始まった『サザエさん』。昭和、平成、令和と時代を越え、お茶の間を楽しませ続けている言わずと知れた国民的アニメだ。
磯野家・フグ田家の人々の何気ない日常を描いた本作は、なんといっても主人公のサザエさんをはじめとした快活なドタバタ劇が魅力なのだが、なかには家族愛を描いた心温まるエピソードもあり、視聴者の涙を誘うものも……。
そこで、ある意味レアな『サザエさん』の家族の愛情にまつわる“神回”を振り返っていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■なんだかんだで信頼し合っている姉と弟の絆…「姉さんとぼく」
頭の回転が早く、お調子者のサザエの弟・カツオ。彼のいたずらでサザエが激怒……なんてエピソードはよく見られるが、2人の思わぬ絆が描かれたのが「姉さんとぼく」というエピソードである。
学校の宿題で“家族”をテーマにした作文を書くこととなったカツオは、一家のなかでもとりわけ特徴的な姉・サザエを題材にしようと決める。
いたずら坊主でいつも怒られているカツオが、どんなとんでもない作文を書くのか……と、サザエのみならず、視聴者も大いに心配(期待!?)してしまったことだろう。しかし、なんとカツオの作文はクラスの優秀作に選ばれ、文集にまで選出されることとなる。
後日、カツオは磯野家の面々にこの作文を発表するのだが、そこに記されていたのは、カツオがサザエの旧友から聞いた、彼女の中学時代のエピソード。
当時、サザエは生まれたばかりのカツオの写真を学生手帳に忍ばせ、周囲の面々に自慢してみせていたのである。この話が気になり、カツオはフネから当時の写真を見せてもらうのだが、そこにはお猿さんのような赤ん坊姿のカツオが映っていたのだ。
カツオ自身が言う“お世辞にも可愛いとは言えない”この写真を、姉がなぜ自慢していたのか……疑問を抱いたカツオに母・フネは「それは弟だからですよ」と諭すのである。
若き姉の気持ちに胸打たれたカツオは、「姉はなんでこんな写真を大事にしてくれたのかと思うと、僕は当分弟でいてやろうと決めた」と、彼らしい言い回しで作文を絞めるのだった。
カツオらしい皮肉めいた愛情表現はもちろん、サザエの「私も当分、姉でいてやるわ」という言葉のやり取りに、二人の姉弟としての固い絆を感じざるをえない。思いがけない内容に胸を打たれた視聴者も多かっただろう。
■感謝を伝えようとするワカメのひたむきさに涙…「ワカメと父の日」
カツオは姉・サザエへの思いを作文に綴ったが、次女・ワカメも手紙によって家族への感謝を伝えている。そんな彼女の心温まる姿が描かれたのが、「ワカメと父の日」というエピソードだ。
ワカメは父・波平に、父の日のプレゼントを贈ろうと考えていたのだが、前日になっても何を贈るべきか決めあぐねていた。
プレゼントに対し、どこか真剣な態度のワカメ。これには数日前の雨の日の出来事が関係していた。
傘を持っておらず、濡れながら走って家路につくワカメを見つけた波平。仕事終わりにもかかわらず、息を切らしながらワカメに追いつき、自身の傘のなかに入れてくれたというのだ。疲れていながらも自分のために走ってくれた父の優しい姿が、ワカメは忘れられなかったのである。
フネからの助言を受け、ワカメは波平への思いを手紙にしたためることに。彼女は父の日に間に合わせるべく、頭を悩ませながらも夜遅くまで何度も手紙を書き直していく。
しかし、父の日に彼女が手渡した手紙には「お父さん ありがとう ワカメ」と、実にシンプルな文章だけが記されていた。父へ伝えたいことが溢れていたものの上手に言葉にできず、ワカメは今の気持ちを率直に書いたのだ。自信がなさそうなワカメに「とっても嬉しいよ」と笑顔で伝える波平。ようやくほっとした様子のワカメだった。
だが、話はここで終わりではない。後日、サザエが掃除中に子ども部屋のゴミ箱で“あるもの”を発見し、それを波平に手渡すのである。
それは、ワカメが書き損じた手紙の数々であった。不器用ながら、それでも精一杯感謝を伝えようとしてくれたワカメの姿を想像し、感極まった波平は涙するのであった。
ワカメの優しく、家族思いな一面が存分に描かれた名エピソードである。