
尾田栄一郎氏と和月伸宏氏、篠原健太氏と空知英秋氏、森田まさのり氏と原哲夫氏。この組み合わせの共通点がお分かりだろうか。いずれも大ヒット漫画を生み出した漫画家であるという他にも、意外な共通点がある。彼らは「元アシスタント&師匠」の関係にあるのだ。
漫画家はプロのアシスタントなどとして下積み生活をすることも多く、その時のプロ漫画家と師弟関係になる場合もある。作風や作画の雰囲気も影響を受けていたり、売れっ子漫画家になってから師匠とコラボしたり、対談したりする機会もある。これらは漫画ファンにとっても嬉しい瞬間だ。今回は漫画家たちの意外な師弟関係について紹介していこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■『ONE PIECE』尾田栄一郎と『るろ剣』和月伸宏
日本を代表する少年漫画『ONE PIECE』の作者・尾田氏は、『るろうに剣心ー明治剣客浪漫譚ー』の作者・和月氏のもとでアシスタントを務めていた経験がある。
『ONE PIECE』はゾロの戦闘シーンをはじめ、ワノ国での侍たち、ミホーク、シャンクスなど、剣士がよく登場する。これは『るろうに剣心』の剣術シーンから影響を受けているとも言われている。
作中の超重要キャラクター・シャンクスが『るろうに剣心』の主人公・緋村剣心と同じ「赤髪」というのも、「師匠の影響があるのでは?」と思わせる要素だ。
その師弟関係は『るろうに剣心』にも反映されている。実はコミックス19巻第百六十一幕で、『ONE PIECE』の要素が登場していた。この巻は人誅編の序盤にあたる部分なのだが、夷腕坊弐號機という精巧な絡繰人形から爆弾が出てくるシーンがある。その爆弾に描かれていたのが、なんと「麦わらの一味のマーク」。麦わら帽子をかぶったドクロを作中に登場させるという遊び心は、和月氏らしい演出だ。
二人の関係性は良好なようで、2020年に開催された展覧会『るろうに剣心展』では、公式図録に和月氏と尾田氏の対談が収録されている。
和月氏のスゴいところは、アシスタントから超人気漫画家を何人も輩出していることだ。尾田氏はもちろん、『シャーマンキング』の武井宏之氏、『Mr.FULLSWING』の鈴木信也氏、『ノルマンディーひみつ倶楽部』のいとうみきお氏など、『週刊少年ジャンプ』連載経験者が名を連ねている。
『ジャンプSQ.』の企画「マンガの極意!」では和月氏が尾田氏をはじめとしたアシスタントたちについて「滅多なことでは『剣心』を褒めてくれなかった」と語っており、冗談半分で弟子たちの負けん気の強さを明かしていた。
戦闘シーンのかっこよさやメッセージ性の強いストーリー、くすっと笑えるコミカルなシーンなどの要素は『ONE PIECE』と『るろうに剣心』に共通している。ふたりの関係性を知ると、この国民的な漫画2作をさらに楽しめるかもしれない。
■『SKET DANCE』篠原健太と『銀魂』空知英秋
『SKET DANCE』と『銀魂』はともにギャグとハートフルなストーリーを融合させた漫画だ。時には腹を抱えて笑い、時には涙してしまうという作風は、両者に共通している点である。それもそのはず、二人は師弟関係であり、かつて篠原氏は空知氏のもとでアシスタントをしていた。
この関係性は漫画ファンの間では広く知られている。その理由はコラボ作品が発表されているからだ。『SKET DANCE』と『銀魂』は同時期に『週刊少年ジャンプ』に連載されており、2011年18号にコラボマンガが掲載されて大きな話題になった。
それぞれのキャラたちが交流する内容は、メタ的なエピソードもたびたび出てくる作品同士だからこそ実現できたと言えるだろう。
『銀魂』のコラボエピソードは、コミックス41巻で読むことができる。内容としては、万事屋の3人が「スケット団」の存在を危惧して不満をぶちまけるという、いかにも『銀魂』らしいストーリーだった。スケット団について「コイツら 完全に俺達 食いにきてます」と言いがかりをつける銀さんは、ギリギリのネタに定評がある『銀魂』ならではの展開だ。
『SKET DANCE』ではコミックス20巻にコラボエピソードが収録され、スケット団の部室に万事屋の3人が突然現れるというストーリーが描かれた。銀さんたちのペースに飲み込まれ、“このままだと乗っ取られる”と危機感を感じるボッスンの焦りをよそに、どんどんめちゃくちゃになっていく……。
特に胸アツ展開なのが、『SKET DANCE』のコラボエピソードの中でボッスンが「オレ ずっと アンタの背中 見てんだからな!!!」と銀さんに言うセリフだ。これは作者自身の心境を投影させているともとれるシーンだ。篠原氏の空知氏への熱い思いがボッスンから銀さんへという形で語られる、最高の演出だった。