■二人の絆が描かれた『一緒に帰るの段』

 映画公開を記念し、テレビアニメ『忍たま乱太郎』では、2024年12月には原作者・尼子騒兵衛氏のプロット回がいくつか放送されたが、そのうちのひとつが32期60話『一緒に帰るの段』。きり丸が、土井先生の家に住むようになった初期の様子が描かれる、二人が親子のような関係になる過程を知る物語として注目のエピソードだ。

 あるとき、乱太郎ら3人が2年の羽丹羽石人(はにわせきと)とともに帰路についていると、遠くから歩いてくる土井先生の姿を見たきり丸が、初めて先生の家を訪れた日のことを振り返りだす。 

 初めて先生の家に向かう日、きり丸は終始遠慮がちだった。幼いながらに気を使う姿に切なくなるが、そんな様子を見た土井先生は「部屋が汚れているから掃除のアルバイトを頼みたい」とあえて彼に頼みごとをし、気を晴らそうとした。

 実際に家を覗くと本当に汚い。驚いたきり丸は、アルバイト代を弾むという土井先生に「借りを作りたくない」と前置きし、家賃と食費の代わりに自分が家事を受け持つと宣言するのだ。

 以来、財布まで預かって先生の身の回りの世話をするきり丸。しかし、彼の家事はツッコミが細かく、食事も雑草入りのお粥だったりイナゴの乾煎りだったりと、かなり節約したものだった。文句を言う土井先生に対しても、「一度贅沢を覚えると後戻りできませんよ」とぴしゃり。一連のやり取りを見るともはや夫婦のようだ。倹約家過ぎるが、きり丸が女性ならいい奥さんになるだろう。

 乱太郎は、きり丸の回想に「そんな二人だけどなんだか楽しそうなんだよ」と微笑む。その言葉通り、きり丸の勝手なバイトに怒る土井先生の顔からは幸せそうな笑顔が溢れていた。二人を暖かく見守る乱太郎たちもまた、我々をほっこりさせてくれる存在だ。

 25期54話『家へ帰ろうの段』では、急な仕事で帰れなくなった土井先生に寂しさを見せるきり丸の様子が描かれた。普段は気丈に振舞っても、中身は10歳の子ども。結局先生が仕事を早く終わらせるのだが、「一緒に帰れる」という土井先生にパッと笑顔を見せたきり丸からは、土井先生を先生としてでなく家族として大切に想っていることが伺える。

 一人で生きてきたきり丸のたくましさには切なくなるが、「土井先生の家」というかけがえのない場所を通して二人の間に深い絆が生まれ、お互いの生活が充実していく様子には胸が熱くなる。

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