
少年漫画では味方キャラ以上に、敵キャラに深いバックボーンが与えられることも多い。近年は特にその傾向が強いようで、公式の人気ランキングで敵キャラが上位に上がってくるのも珍しくはなくなった。
敵キャラは死亡する者も多く、なかにはそのドラマによって味方キャラ以上に泣かせてくるケースも。今回はそんな「敵キャラたちの泣ける名シーン」を3つピックアップした。彼らのバックボーンとともに振り返っていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■成長した武人!かつて命を奪った宿敵の腕のなかで死んだ『ダイの大冒険』ハドラー
敵でありながら成長する様子を細かに描かれたのが、監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏による『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のハドラーだ。魔王軍の魔軍司令として登場し、主人公ダイたちを苦しめた魔族である。
そんなハドラーの名シーンといえば、やはり死亡シーン。魔法使いポップとの掛け合いもあって、作中でも屈指の名シーンになっている。
ダイとの最終決戦を終えお互い認め合った後、彼とともに魔王軍の死神キルバーンの罠にはめられピンチに陥ったハドラー。そこにポップが駆け付けるが、敵の技のあまりの威力に心が折れかけてしまう。するとそこでハドラーは、「最後の最後まで絶望しない強い心こそがアバンの使徒の最大の武器ではなかったのかっ!!」と喝を入れる。
続けてダイとポップのために体を張り、ポップを生かすため生まれてはじめて人間の神に祈りを捧げることまでしたハドラー。するとまるでそれに応えるようにまさかの助っ人、宿敵アバンが登場し、無事にキルバーンの罠は解除される。
その後ハドラーは「…素晴らしかったぞ おまえの残した弟子たちは…!」「オレの生き方すら変えてしまうほどにな…!!」と言い残し、アバンの腕の中で息を引き取った。あまりに粋すぎるこの一連の展開は、涙なしでは見られない。
ただただダイとの決着を望み自分を高める姿は、善悪や人間と魔族という枠組みを超え、本当に強くてかっこいい男という印象を与える。特に、2022年4月16日に放送されたアニメ第73話「炎の中の希望」ではエンディングとアイキャッチをカットして、ハドラーの最期がしっかりと表現されている。こだわり抜いて作られた映像、ファンならぜひとも視聴してほしい。
■父親の歪んだ思いが子の身を焼く…『僕のヒーローアカデミア』轟燈矢
「家族」をテーマに強烈な過去が描かれているのが、堀越耕平氏の『僕のヒーローアカデミア』に登場する荼毘(だび)とその家族・轟家だ。荼毘は敵(ヴィラン)連合に所属する敵で、性格は残忍。しかし、その正体はトップヒーロー・エンデヴァーこと轟炎司の長男・轟燈矢である。
燈矢はエンデヴァーから強力な炎の個性を受け継いでおり、幼い頃は将来を期待されていた。しかし、炎を操る個性でありながら炎に弱い体質であるとわかり、エンデヴァーに見放されてしまった(と燈矢は感じた)。おまけに自分以上の才能に恵まれた弟・焦凍が生まれ、彼は焦りからどんどん追い詰められていく……。
燈矢は「自分を見てほしい」という願いから無理な修行を続け、ついには焼け死ぬ一歩手前までいってしまう。その後ヴィランに拾われたため遺体が見つからず、家族には死んだものと思われていた。そして自身の「死」の後、父親がいまだに焦凍の才能に執着しているのを知ったことで、彼は決定的に壊れてしまう。その恨みは最終盤まで消えることなく、エンデヴァーとの死闘につながっていった。
荼毘は登場時点から長らく正体不明のキャラだったが、燈矢としての過去が明かされてからは本当にかわいそうだった。もちろん荼毘は罪なき人々を殺しているし、やってはいけないことをやってきた。でもその背景にあるものを思うとどうしても憎みきれない。筆者は悲しい気持ちとつらい気持ち、応援したい気持ちが入り交じりながらストーリーを追いかけていた。
最終的には、完全に暴走していたところをエンデヴァーをはじめとする轟家全員に止められる。心身ともにボロボロな状態で「…大嫌いだ… お父さんなんか…! 家族なんか…!」と想いをぶつける姿があまりにも切なかった。