■犯人があまりにも可哀想の声多数!?「剣持警部の殺人」
最後は、群を抜いて非道な被害者が登場した「剣持警部の殺人」を振り返りたい。同エピソードは少年犯罪を取り上げたもので、ストーリーは重め。作り込まれたトリックに感心しつつも、読後にやるせなさを覚える事件だ。
始まりは、3年前の女子高生死体遺棄事件。3人の男子高校生が17歳の十神まりなを拉致監禁して乱暴し、転落死した彼女の遺体を遺棄した凄惨な事件である。
犯人のうち魚崎葉平・多間木匠はすでに少年院から出ていたが、ついに主犯格の毒島陸も少年刑務所から出所した。剣持警部は彼らの動向を注視するが、皆反省の色も見せない。
そんな折、毒島が銃で撃たれる事件が勃発。続いて、魚崎が拘束された状態で浴槽に沈められて死亡し、多間木も車の爆破で火だるまになり死亡する。これらの殺害方法は、まりなが受けた拷問に沿ったものだった。
現場証拠が示す犯人は剣持警部。だが金田一は剣持の無罪を信じ、真犯人が剣持をスケープゴートにした毒島だと突き止める。
毒島の動機はあまりにも悲しいものだった。父親同士の仕事の関係で多間木から利用されていた高校時代の毒島は、その中で親が借りてくれたアパートの鍵も奪われてしまう。さらにある時、毒島の片思い相手だったまりなに目を付けた魚崎と多間木が、彼女をアパートに拉致してむごい拷問をおこなったのである。
1か月近く経った後、まりなを探す毒島はアパートを訪れ窓から飛び降りようとする彼女と鉢合わせ、目の前で転落死を見てしまう。気が動転した彼は二人に言いくるめられて遺棄を手伝い、多間木の言うがままに罪を被った。
少女の命を弄んだ犯人が少年法で守られ、たったの3年で自由を手にした事実はなんとも胸糞が悪い。一方、事件の真相を綴った手紙を握りつぶした弁護士や、まりなが毒島の無罪を吹き込んだレコーダー付きのキーホルダーを見落とした警察がもっと慎重に動いていれば、毒島の人生は変わっていたのではとも思ってしまう。
『金田一少年の事件簿』には、今回紹介した事件のように、悲しい背景を持つ犯人も多い。どこかで一つでも流れが変わっていれば殺人に手を染めずに済んだのかもしれないが、いずれの事件も被害者になった人物の行動がひどすぎるため、どうしても犯人に同情してしまう……。