
1992年から『週刊少年マガジン』で連載をスタートし、シリーズ累計発行部数1億部越えの大ヒットを記録する『金田一少年の事件簿』(原作:天樹征丸氏・金成陽三郎氏、作画:さとうふみや氏)。
本作で主人公・金田一一(はじめ)が解決してきた事件は、猟奇的な犯人による非道な犯行から、思わず犯人に同情してしまう悲しい殺人までさまざまだった。今回はそんな中から、「被害者の行動がヤバすぎ」だったいくつかの事件を振り返ってみようと思う。
■意外な犯人と悲しい結末が胸を打つ「魔犬の森の殺人」
魔犬“ケルベロス”を騙った計画犯罪を描いた「魔犬の森の殺人」は、Caseシリーズに形態が変わった1つ目の事件で、悲しい事件としても名高いエピソードだ。
あるとき、同級生・八尾徹平と千家貴司とともに、山梨県にある八尾の別荘までキノコ狩りに行くことになった金田一と美雪。宿泊先が燃えてしまい森の中をさまよった金田一らは廃研究所を見つけ、そこに合宿に来ていた三城大学オカルト研究会一行と出会う。ちなみに、火事の原因は金田一が皆の食事に幻覚キノコを混ぜ、酩酊した美雪が火を付けたからで、これはこれで大事件である。
そして、動物実験の痕跡が残る不穏な廃研究所の中で、オカルト研究会のメンバーがケルベロスの仕業に見立てた残忍な方法で次々と殺されていった。最終的には、金田一が自身の幼なじみであり親友でもある貴司を真犯人として暴きだす……。
彼の犯行動機は復讐だった。貴司には、病に侵され余命半年と宣告されている水沢利緒という恋人がいた。しかし彼女は半年を待たず短期入院中に急死してしまう。違和感を持った貴司が調べると、なんと彼女を担当していたのは医師ではなくオカルト研究会の医学部生と薬学部生4人だったのである。もちろん彼らは医師免許を持っていなかった。
さらに貴司は、利緒が彼らの手で試験薬の実験台にされて死んだと知るとともに、彼らが“たかが半年しか生きられない患者の死で責任を取らされてたら医者なんかやってられない”という旨の軽口を叩いているのを聞いてしまったのだ。
殺害は容認できるものではない。だが、被害者達は解剖実習の際に遺体の耳をそぎ落とし、壁にくっつけて「壁に耳あり」とふざけるという、医学や薬学を学ぶ者としてあるまじき行為をおこなっていた。そんな者たちに愛する人の命を奪われた貴司の心情を思うと、やりきれない気持ちになる事件だ。
■金田一VS怪盗紳士!切ない余韻が残る「怪盗紳士の殺人」
探偵モノに欠かせないライバルといえば怪盗だ。「怪盗紳士の殺人」では、華麗な手口で絵のモチーフごと盗む”怪盗紳士”を軸とした悲劇的な殺人事件が描かれた。
ことの発端は、画家・蒲生剛三のもとに届いた怪盗紳士からの挑戦状だった。剣持警部から依頼を受けた金田一は蒲生の屋敷へと向かう。そこには蒲生の作品「我が愛する娘の肖像」があり、その娘として先日転校した同級生・和泉さくらが現れた。
予告通り肖像画が盗まれモチーフのさくらが姿を消した後髪を切られると、これを皮切りに蒲生の付添医師・海津里美、そして蒲生も絵とともに姿を消し、今度は死体となって発見される。
その後、金田一の仕掛けた罠で怪盗紳士の正体は美術雑誌記者・醍醐真紀だと判明するが、彼女は殺人を否定。金田一は肖像画に描かれた南十字星をヒントに”もう一人の怪盗紳士”を見抜き、一連の真相を暴く。なんと、海津と蒲生を殺したのはさくらだったのだ。
追い詰められたさくらは、自分が蒲生ではなく死んだ無名の画家・和泉宣彦の娘だと告白し、動機を語りだす。さくらが小さい頃、蒲生のもとを訪ねて以降行方不明になった宣彦。時を経て波照間島の病院で再会するも、父は変わり果て自分の名前や言葉もわからない状態になっていた。そして、さくらの肖像画を描いた直後に命を落としてしまう。
死後、蒲生が父の絵を自分の絵として出していると知ったさくらは真相を暴くため彼に近づき、衝撃の事実を知る。蒲生と海津は父を影武者として利用し、抗議した彼を黙らせるため薬漬けにしたのだ。
父を殺され母も病で失ったさくらにとって、家族を壊した蒲生らは許せない相手だ。復讐に走ったのも納得してしまう。目的を果たしたさくらは自らを刺し、両親への想いと葛藤、後悔を語りながら命を落とした。「どうして死んじまうんだよ!?」と泣きながら叫ぶ金田一の姿も涙を誘う、あまりに救いのない物語である。