
「ファミコンウォーズが出~るぞ」というCMソングを耳にすると、思わず食いついてしまう40代以上の人は多いはずだ。
1988年に任天堂からファミリーコンピュータ用ソフトとして発売された『ファミコンウォーズ』。「ファミコンウォーズが出~るぞ」「こいつはどえらいシミュレーション」「かあちゃんたちには内緒だぞ」「のめりこめる!のめりこめる!」という、映画『フルメタルジャケット』を元ネタにしたこのゲームのテレビCMは、子どもたちに大きなインパクトを与えた。ただ、本作はCMだけではなく、戦略シミュレーションゲームの普及のきっかけを作ったといってもいい、実際に「どえらいシミュレーション」だった。
■可能な限りシンプルさを追求した作品
『ファミコンウォーズ』は、プレイヤーはレッドスター軍かブルームーン軍のいずれかの軍の指揮官として、歩兵や戦車などを生産し、戦場となる15のマップをクリアしていくゲームである。クリア条件は敵軍の首都を占領するか、敵軍を全滅させるかのいずれかだ。
ゲームはターン制で進行し、先攻のレッドスター軍がすべての部隊を動かし終わったら後攻のブルームーン軍のターンとなり、それを交互に繰り返しながら部隊を進軍させていく。
最近の戦争ゲームではリアルタイムに進行していくものもあるが、それらと比べると実にシンプルな作りだ。しかし、これは将棋や囲碁に慣れた日本人に戦略シミュレーションを根付かせるには、うってつけの形だった。
さらに登場する兵器も実にシンプル。たとえば戦車であれば、「戦車A」と「戦車B」の2種類しかない。他のシミュレーションゲームでは戦車にも複数種類があり、それぞれに搭載されている武器が異なったり、性能が異なったりするため、兵器の特徴を正確に理解して戦略を立てなければならなかった。
だが、『ファミコンウォーズ』は戦略シミュレーションゲームの入門編的なゲームである。高いけど強いのが「戦車A」、安いけどちょっと弱いのが「戦車B」という単純明快な形が実に良かった。難しすぎると子どもたちは食いつかないが、そのあたりのちょうど良いバランスが魅力的でもあった。当時小学生だった筆者でもプレイでき、クリアもできた、まさに「のめるこめる」シミュレーションだったように思える。
■個性豊かなマップの数々で、リアルな戦略を体験できた
同作の戦場として用意されている15のマップはそれぞれが個性的だ。使える兵器は、大きく陸軍、海軍、空軍の3種類に分けられるが、マップによっては陸軍のみしか使えなかったり、陸軍と空軍のみのマップや3種類すべて使えるマップもあるなどさまざま。それによって戦略も大きく変わってくる。
たとえば、陸軍のみしか使えないマップでは、取扱説明書にも紹介されている「ソラマメジマ」などがあり、ここでは「自走砲A」という兵器が活躍する。前衛を戦車で固めて敵の攻撃を防ぎつつ、遠距離から自走砲で敵主力に損害を与えていくのが基本戦略となる。
陸軍と空軍が使えるマップでは、「爆撃機」が大きな戦力だった。地上部隊に対する破壊力の大きさに加え高い移動力を有するため、主力として大活躍したが、敵の「戦闘機A」に狙われ、こちらは攻撃できずほぼ壊滅させられることもあった。
海軍が使えるマップは、高価だが攻撃力も耐久力も高い「戦艦」をいかに早く生産し、戦線に投入していくかがポイントだった。
ある程度、基本的な戦略はあるが、マップによっては特殊な戦い方を強いられる場合もある。
たとえば「オニギリジマ」というマップでは、2つの三角形の島のそれぞれに両軍が陣取っているが、その島は海で隔てられており、戦車が渡ることができない。空軍機では戦車を運ぶことはできないので、爆撃機が攻撃の主力となってくるのだが、敵が設置してきた高射砲を蹴散らすのが意外に厄介だった。
高射砲は対空攻撃に特化した兵器なので、爆撃機で攻撃しても双方同等の被害を被ってしまう。しかも爆撃機に比べて高射砲は格段に安い。消耗戦になれば爆撃機の損害額のほうが大きいわけだ。高射砲は戦車などの攻撃には完全に無力なので、戦車を使いたいけど使えないのがもどかしいところ。プレイヤーの腕が試されるマップだった。
他にもレッドスター軍とブルームーン軍とで初期の優位度が明らかに違うマップもいくらか存在した。
たとえば「キメンハントウ」は、マップにある都市のすべてがブルームーン軍の占領下にある状態からスタートする。都市からはターンごとに兵器を購入する軍事費を徴収できるため、序盤はブルームーン軍のほうが軍事費的に圧倒的に有利であり、レッドスター軍は少しずつ都市を占領して戦力差を縮めていかなければならない。
レッドスター軍は常に先攻という優位性もあるためか、全15のマップにはブルームーン軍に有利な配置になっているマップが多かった印象である。
このように個性的なマップでリアルな戦闘を味わうことができた。