■人間の醜さをこれでもかと描いたワンシーン…『幽☆遊☆白書』

 冨樫義博氏の『幽☆遊☆白書』は、物語冒頭で死亡してしまった高校生・浦飯幽助が生き返り、その後、霊界と魔界、人間界を舞台に妖怪たちと戦いを繰り広げていくバトル漫画だ。

 数々の個性的な敵キャラクターが登場する本作だが、なかでも壮絶な過去が描かれた人物といえば、作中屈指の強敵として立ちはだかる仙水忍だろう。

 仙水は「魔界の扉編」を締めくくる敵キャラで、元二代目霊界探偵だ。彼は過去のある壮絶な体験によって、人間に対し憎悪を抱き、激しく憎むようになっていく。

 霊界探偵として活躍していた頃の仙水は妖怪を絶対的な悪と信じて疑わなかったのだが、任務の途中、人間たちが悪逆非道な宴を開いている場面に遭遇する。

 人々はなんと捕獲した妖怪を虐殺し、痛めつけることを楽しんでいたのだ。肉体を切り刻み、吊るしあげた肉体を貫き、拷問器具で痛めつけ、血液で満たされた風呂でくつろぐ……そのあまりにも鮮烈な光景に仙水は叫び声をあげる。

 結果、彼はその場にいた人間を全員殺害。返り血に濡れ、虚ろなまなざしを浮かべたまま「ここに人間はいなかった 一人もな」と、深い絶望をあらわにしたのだった。

 本来、人間を守るために奮闘していたはずの仙水にとって、この忌まわしき宴は実に衝撃的で、その生き方を大きく変えるきっかけとなってしまった。作中、わずかな描写ではあったものの、凶行に酔いしれる人間の愚かさと罪深さに目を背けてしまいたくなるワンシーンだ。

 

 登場人物の葛藤や成長劇、仲間との友情、強敵に勝利する姿……といった熱い展開で読者の胸を震わせるジャンプ作品だが、紹介してきたように思わず見ている者の背筋を凍り付かせるトラウマ級のシーンが登場する場合もある。

 どの作品も普段の熱い展開から一変、おぞましく容赦のない描写が読者の心を揺さぶり、締め付けていく。そのあまりの凄惨さから、いまだに各シーンがトラウマとなって焼き付いている読者も多いのではないだろうか。

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