1980年代の『週刊少年ジャンプ』(集英社)のバトル漫画は、いま読み返しても面白い。白熱のバトルの数々はもちろん、その裏側で主人公に想いを寄せるヒロインの魅力にも惹かれたものだった。
とはいえ、ヒロインのなかには主人公となかなか結ばれないだけでなく、不幸を一気に背負ってしまったような薄幸系の美女も存在する。そこで、1980年代のバトル漫画に登場する薄幸系ヒロインの魅力を振り返ってみたいと思う。
※本記事には各作品の内容を含みます
■世紀末に生きる強者たちから好かれる…優しくて芯が強い『北斗の拳』のユリア
原作:武論尊氏・作画:原哲夫氏の『北斗の拳』には、美女が多数登場する。だが、そのなかでも一番のヒロインといえば、やはりケンシロウの恋人でもあるユリアだろう。彼女はその魅力ゆえ、シンやラオウなど権力を握る者にさらわれるかわいそうな女性だった。
しかも、死の病に侵されており、寿命も幾ばくもない。ラオウを倒したケンシロウとようやく一緒になれたが、ふたりが過ごせたのはわずかな期間だけ……。なんとも切なくなってしまう。最期の時をケンシロウと穏やかに過ごせたことが、唯一の救いのように感じた。
さて、このユリアだが、実は“南斗六聖拳の最後の将”という驚きの立場で、世紀末に生きる屈強な男たちを虜にしてきた存在でもある。ケンシロウやラオウ、トキ、シン、ジュウザなど、どれも強者ばかりだ。
とくに素晴らしいのが性格だ。芯の強さ、そして誰に対しても優しく慈愛の心で接する。
大胆に告白するシンに放った「わたしは あなたに そう想われていると知っただけで死にたくなります」という強烈な拒否っぷりは、ケンシロウへの一途さはもちろん、凄まじいほどの芯の強さが垣間見える。「ますます好きになる」と返したシンのM気質と実はぴったり合いそうだが……。
そして囚われの身でありながら、ラオウを含めその部下たちを治療する献身ぶり。優しくて強い女性は、男なら誰だって惹かれてしまうものだろう。
■意志をハッキリと示す強い女性…『ジョジョ』のエレナ
荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険』での薄幸系の美女といえば、第1部の主人公、ジョナサン・ジョースターの妻となるエリナ・ペンドルトンだろう。
ディオ・ブランドーに無理やりにファーストキスを奪われたり、紆余曲折ののちようやく結婚できたジョナサンは新婚旅行中にディオに襲われ死亡。そのジョナサンと自身の子ども(ジョージII世)も殺されてしまうなど、何度も不幸な目に遭っている。
ただ、このエリナも芯が強くたくましい女性だった。ディオに唇を奪われた際には涙を流しながらも泥水で口をすすぎ、その行動で拒絶反応を見せつける。これはプライドの塊であるディオからすれば想像を絶する屈辱だったらしく、激昂し平手打ちを食らわせていた。
ジョナサンの死の間際には彼とともに死ぬ覚悟を決めるも、“君は生きなくてはならない”と説得され考えをあらためた。その後、エリナは見知らぬ赤ん坊を助けたうえで自身のお腹に宿った子を立派に育て上げている。
50年後の第2部でも序盤に登場したエリナ。孫のジョセフ・ジョースターと彼の友だちでアフリカ系アメリカ人の少年、スモーキー・ブラウンの3人でレストランで食事をしていた。しかし、一行は侮辱的な言葉でスモーキーを差別する客に遭遇し、ブチギレそうなジョセフに対し「ほかのお客に迷惑をかけずにきちっとやっつけなさい!」と、後押しする場面がある。
歳を重ねてもなお気丈にふるまうエリナの姿はカッコ良く、また孫のジョセフも祖母であるエリナには頭が上がらない様子も面白い。彼女がこの50年をたくましく生き抜いてきたことが想像できる。
小学校の英語教師だったというエリナ。最期は家族に見守られながら、81歳で激動の生涯を終えている。