1990年4月20日にファミリーコンピュータ用ソフトとして『ファイアーエムブレム』シリーズの第1作『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』が発売され、4月で35周年を迎える。シミュレーションRPGの草分け的存在として、多くのプレイヤーを夢中にさせてきた同シリーズ。2023年には、Nintendo Switchで最新作『ファイアーエムブレム エンゲージ』が発売されるなど、いまだ根強い人気を誇っているシリーズである。
同シリーズは主に国家間の戦争を描いているが、敵軍の中にも優しい人物や、君主のやり方に疑問を持っている人物も多く、そういったキャラを説得して味方に引き入れることができるのも魅力の一つであった。
だが、すべてのキャラを仲間にできるとは限らない……。中には仲間にできそうなのに絶対に仲間にできないキャラもおり、そういったキャラが目の前に立ちはだかった際は、倒すことに躊躇してしまうものだった。
今回はそういった、シリーズ中で倒すのがためらわれるような気の毒な境遇のボスたちを振り返っていきたい。
■主人公たちの親友、心優しきリオン
まずは2004年にゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された『ファイアーエムブレム聖魔の光石』より、グラド帝国の皇子・リオンだ。
同作はルネス王国の王女エイリークと王子エフラムの2人を主人公にしたタイトル。リオンは彼女たちの親友で、穏やかな表情が印象的なイケメンだ。
武芸の才能はないものの魔法の研究には熱心であり、民を救うため、病気などを治癒する手法を研究していた。その研究に使用していたのがグラド帝国に伝わる聖石ファイアーエムブレムだった。だが、このファイアーエムブレムはかつて魔王・フォデスを封印した聖石でもあった。
リオンはそれにより病気の子どもたちを救ったが、父親である皇帝ヴィガルドの病気を治すことはできなかった。そして、父の死と皇帝継承への不安から精神的に追い詰められ、魔王を復活させてしまい、世界各地へ侵攻する暴挙に走らせることになる。
最終的にはリオンの体は魔王に乗っ取られ、マップ上で出会う彼は味方にする説得もできず、エイリークに「僕を…君の手で滅ぼしてほしい」と最後の頼みを口にするのだった。
確かにリオンの行ったこと自体は決して褒められたことではないのだが、リオンの優しい性格はエイリークとエフラムもよく知っていた。ストーリーでもその点は語られるため、リオンと対峙し、倒さなければならなくなったときはその境遇に気の毒さを覚えたものである。
エンディングで、かつて3人が出会ったときの様子が描かれるのがまたいっそう悲しさを誘う。クリア後のフリーマップでのオマケ要素としてリオンを使用できるのが救いだろうか。
■帝国の政策には反対しつつも皇子への愛から止めきれなかったイシュタル
続いては1996年に発売されたスーパーファミコン用タイトル『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』より、魔導士・イシュタル。
同作はユグドラル大陸を舞台とし、シグルドとその息子セリスの2世代の戦いを描く壮大な物語。前半のシグルド編では主人公シグルドをはじめ、その仲間たちが次々と悲劇的な最期を遂げるという、他のシリーズでは見られないようなラストを迎える。そしてそれまでの戦いで出来上がったカップルたちの息子・娘たちが、才能と戦いの意思を受け継ぐのだ。
今回取り上げるイシュタルは、まだ10代の少女ながら強力な雷魔法・トールハンマーを武器に、主人公の前に立ちはだかるグランベル帝国の公女だ。
グランベル帝国は暗黒神ロプトウスに乗っ取られた皇子ユリウスにより支配され、民の虐殺や子ども狩りといった暴虐の限りを尽くしていた。
だが、イシュタルはもともとユリウスが優しい性格だったときのことをよく知っていたため、彼に対する愛を貫くことになる。それでも子ども狩りにだけは断固として反対し、捕らわれた子どもたちをこっそりと逃がしていた。
そういう一面を見せてきたからこそ、イシュタルと対峙するときに多くのプレイヤーは「この章で仲間になるのでは?」と期待を抱いたに違いない。
というのも同シリーズでは、これまで、敵軍の考えに疑問を持っているキャラは仲間になるというのが定説に近く、しかも美男美女は仲間になるというのが王道だった。
だがイシュタルはその条件を満たすキャラであるものの、けっして仲間にすることはできない。まだ若い少女を倒さなければならないという点からも、倒すのを躊躇させるキャラクターであった。
イシュタルに限らず、『聖戦の系譜』では、ユリウスの圧政に不満を抱いている部下たちと戦う場面も多い。
また、仲間がやられるのを指をくわえて見ているしかないシーンが描かれたりなど、戦争の悲しい側面が色濃く描かれた作品であった。