■希望から絶望へ、そのまま闇落ちしたハーディン
最後に挙げるのは、1994年に発売されたスーパーファミコン用タイトル『ファイアーエムブレム 紋章の謎』からオレルアン王弟のハーディンである。
同作は「暗黒戦争編」と「英雄戦争編」の2つの争乱が描かれたタイトルで、暗黒戦争編はファミコン『暗黒竜と光の剣』のリメイク。この暗黒戦争編に登場するアカネイア王国のニーナ王妃は敵対するグルニア王国の名将カミュに命を助けられたことで、彼を愛するようになっていた。
だが、カミュは、結局主人公であるマルス王子らのアリティア王国やアカネイア王国の連合軍と対決し、命を落とす。その結果、最終的にはずっとニーナ王妃を守り続けていたオレルアン王国のハーディンが彼女の心を射止めて結婚することとなった。
ここまでが暗黒戦争編であり、『暗黒竜と光の剣』の結末である。
ハーディンは「暗黒戦争編」では味方ユニットとしてバトルに役立つソシアルナイトで、むしろエピローグでも幸せなキャラとして描かれる。だが、リメイクに伴って英雄戦争編が追加されたことで、ハーディンの運命は大きく変わる。目を妖しく光らせたボス敵としてマルス王子らの前に現れるのだ。
ニーナと結婚し、アカネイア国王となったハーディンだったが、彼女の気持ちが自分には向いていないことに気づき、悩むようになる。そして、悪の魔術師・ガーネフにその気持ちを知られ、闇のオーブの力によって操られてしまうのだ。
結果、自ら愛するニーナを暗黒竜復活のいけにえにするようガーネフに差し出すことになってしまう。
これだけならハーディンが身勝手なだけだと言えるかもしれない。だが、暗黒戦争編で倒したカミュが実は生きており、仮面の騎士・シリウスとして仲間に加わる。そしてニーナ王妃を救い出すハッピーエンドの展開が描かれるのだ。
それに対してハーディンは闇落ちしたままの状態で、主人公のマルスたちにとっては倒さざるをえない敵として、悲しい最期を迎えることとなる。
ハーディンの気の毒さは、なんといってもファミコン版とスーパーファミコン版で立場が180度変わってしまったことにある。前作での頼れるソシアルナイトである彼を知っているプレイヤーにとっては、そのまま倒すには「かわいそうすぎる」と思わされるものだった。
さて、今回は3人だけを紹介するにとどまったが、国家間の戦争をテーマにした作品である以上、多かれ少なかれ気の毒な境遇のキャラクターは存在する。戦争の悲劇をゲームというエンターテインメントで表現した作品というのは当時はまだ少なく、そういう意味でも『ファイアーエムブレム』シリーズはエポックメーキング的な作品であったかもしれない。