■立ち振る舞いがカッコ良すぎる!『Paradise Kiss』イザベラ
1999年から『Zipper』(祥伝社)で連載された『Paradise Kiss』。ファッション誌に連載されているだけあって、キャラクターたちの着こなす煌びやかな衣装、メイクも含め、見どころ満載の作品だった。
主人公は勉強しか取り柄がなかった早坂紫だ。彼女はデザイナーの卵である小泉譲二(ジョージ)と出会ったことで、ファッションモデルとして開花していく。紫とミステリアスなジョージの大人びた恋愛模様に読者は夢中になった。
ファッションを学ぶ学生たちがメインキャラクターのため、全員個性が際立っているのだが、なかでも存在感を放っていたのが山本大助ことイザベラだった。
イザベラは男性として生まれたのだが、性別違和を感じており、女性として生きている。ジョージの幼馴染である彼女は、デザイナーの描いたイメージからパターンを引き、型紙を作るパタンナーを目指していた。
彼女にとって我が道を行くジョージは救いであり、憧れの存在でもあった。以降、イザベラはジョージのパタンナーになることを志すようになる。
イザベラは登場人物のなかで誰よりも大人だったように思う。その立ち振る舞いは上品で優雅だ。
彼女が紫に言ったセリフで「美しい装いは人に勇気や自信を与えるわ」というものがある。イザベラ自身、ジョージが作った服を着たことで前に進むことができた人間だ。そして、紫もまたジョージに出会い、人生が変わっていった。それまで自己評価が低く、自信のなかった紫を、こうしてイザベラは幾度となく勇気づけた。
懐が深く、精神的にも成熟している女性は、他者を安心させる存在になる。イザベラはそんな女性の鑑のようなキャラクターだった。
物語の最後、パリへと向かうジョージに呼ばれてもいないのにしっかりと同行するイザベラ。呆れたジョージに「どうするんだ この先」と言われ、「決まってるじゃない あなたのドレスのパターンを引くのよ」と優雅に答えるマインドは見習いたい限りだ。
矢沢作品に登場するいい女たちを紹介してきた。彼女たちの言葉や行動に勇気づけられてきた女性は多いだろう。優しく、気高く、そして強い彼女たちの紡ぐ言葉1つ1つは、今も心に沁みる。
魅力的なキャラクターが数多く登場する矢沢作品。ぜひこの機会に読み返してみてはいかがだろうか。