■クールな女性刑事を見事に演じた『沙粧妙子ー最後の事件ー』
最後に紹介したいのは、1995年7月よりフジテレビ系列で放送された『沙粧妙子ー最後の事件ー』だ。本作で浅野さんは捜査一課に属するクールな女刑事を演じている。本作は元科捜研に所属しており、プロファイラーとしての実績もある妙子が、連続猟奇殺人をめぐり活躍していく刑事ドラマである。
それまでの刑事ドラマといえば、圧倒的に男性を主役にしたドラマが多かったように思う。90年代は水谷豊さんらが主演で人気を博した『刑事貴族』や、柴田恭兵さん主演の『はみだし刑事情熱系』など、情熱を抱えた熱き男性刑事たちの活躍を描く作品が目立っていた。
しかし『沙粧妙子ー最後の事件ー』は、それまでに少なかった女性刑事を主役に据えた物語だった。浅野さんが演じた妙子は警察組織のなかで孤立した一匹狼のような存在で、口数も少なく、相手を斜め上から見据えるような目線で接する。そんな彼女の姿は“孤高の女刑事”としての魅力を存分に発揮しており、ほかの刑事ドラマとは一線を画していた。
筆者はこのドラマを見るまで、刑事といえば屈強な男性ばかりをイメージしていた。だが本作で、“実は女性刑事というものも存在するのか”と驚いた印象がある。この作品を皮切りに、日本のドラマではクールな女性刑事が活躍する作品が増えていったように思う。
トレンディドラマをはじめ、数多くの作品で活躍した浅野温子さん。とくに浅野さんは、女性からの支持を得てきた印象がある。その理由の一つは、彼女が視聴者から嫌われがちな“ぶりっこ”なキャラクターとはまったく違う印象があるからだろう。
浅野さんはくったくのない笑顔でキャラクターを演じ、時には豪快に酔っ払い、男勝りの大立ち回りを見せることもあった。その姿に、多くの女性視聴者が「こんなキレイで強い女性になりたい」と憧れたのだ。
現在浅野さんは60代に突入しているが、その美しさも演技力も健在である。今年5月に公開された『帰ってきた あぶない刑事』でも変わらぬ薫の姿を披露し、話題を呼んだ。これからも彼女のさらなる活躍に期待が高まる。