80年代から90年代にかけて黄金期を迎えた少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)。様々なジャンルの名作が連載される中、圧倒的な支持を得ていたのが1982年から連載が始まった池野恋さんの『ときめきトゥナイト』だ。
胸キュン、ハラハラ、感動、笑いが散りばめられた本作は、いわば女子の「好き」という感情を刺激する至高のファンタジーラブコメディ。魔界、人間界、果ては冥界を股にかけて繰り広げられる江藤蘭世と真壁俊の壮大なラブストーリーに、当時の少女たちはこぞって夢中になった。
今回は、3人の主人公の物語が描かれた『ときめきトゥナイト』から、江藤蘭世を主人公とした第1部の魅力を振り返っていきたい。
■怒涛の展開に目が離せない「第1部」
第1部の主人公は、狼女の母・椎羅と吸血鬼の父・望里の娘、江藤蘭世だ。両親と弟の鈴世とともに人間界で暮らす彼女は、転校した中学校で真壁俊に一目惚れする。
一方の魔界では、12月25日に忌み子の王子が目覚めるという予言が出たことで該当者探しが始まった。そして25日、俊は眩い光の中で王子に転生してしまう。同時に王妃・ターナの記憶も戻り、俊とアロンは双子で、不吉な王子伝説を恐れた大王によって人間界に追放されたことが明かされる。
反逆罪を承知で俊を守る蘭世たちと、超能力が開花し急スピードで成長する俊。彼が12歳になった頃ついに両陣営は対峙し、その最中に16歳の姿に戻るが、魔女メヴィウスの水晶に吉兆=新時代の幕開けが出たことで和解した。
やっと蘭世と俊に平穏が訪れたと思われたが、俊とアロンは冥王に呼ばれる夢を見るようになり再び不穏な空気を纏いだす。心配して俊の夢を覗いた蘭世は、夢と共鳴していたダーク=カルロと出会う。
その頃、魔界では2000年前の王子戦争が繰り返されると騒ぎが起こる。事態を重く見た大王は、戦争を治めた勇者ゾーンを復活させることに。復活したゾーンは瞬く間に魔界人の心を掴むが、この人物こそが冥王ノーゼだった。
そして、ダークが2000年前の王子ジャン・カルロの子孫で、俊と蘭世はジャンと妻ランジェの生まれ変わりだと判明する。俊らは既に冥王の手に落ちた魔界を救うため冥王に挑み、ダークの命と魔力を犠牲にして辛くも勝利した。
物語はクライマックスに突入し、生き延びた冥王が世界を司る5つの石を求めて俊を襲撃する。ダークに石の意味を聞いた蘭世たちは、冥王の再来に備え失った魔力を復活させてもらう。
そして、アロンの王位認証式に冥王が乱入し、大王が命を落とす。怒りに震える俊とアロンは、蘭世と生命の神の助けによりついに冥王を滅ぼした。平和を取り戻した魔界でアロンは王となり、俊と蘭世は結婚を約束するのであった。
コメディ全開の前半からシリアスな後半への切り替えも見事だが、このボリュームで第1部なのだから壮大さに驚いてしまう。
■嫌なキャラはいない!魅力的すぎる脇役たち
同作の魅力を語るうえで、脇役ながら存在感を放っていた神谷曜子は外せない。恋の戦いは敗れたものの、美人・頭脳明晰・金持ちというハイスペック女子だ。俊へのアプローチはパワフルで、噛みついたりボクシングで殴り合ったりと蘭世への妨害は肉体派。よくある恋のライバルとはひと味違う面白さが彼女にはある。
蘭世との間には次第に絆も生まれた。印象的なのは、物語後半で曜子を操る冥王に蘭世が「友だちにそんなひどいことさせないで…!」と発言したシーン。曜子もまた、意識を失う蘭世を見て「私だけ生き残ってなんになるっていうのよ」と涙を流し、お互い想い合っている様子が伺えた。
また、曜子は事あるごとにヨーコ犬にされ魔界のトラブルに巻き込まれていく。肝が据わっている彼女の活躍で活路が開くことも多く、間違いなく彼女はキーパーソンの1人だった。
江藤家も忘れてはいけない。駆け落ちで大変な思いをしてきたからこそ、人間に恋する蘭世に辛い思いをさせたくないという椎羅の親心には、大人になった今深く共感してしまう。アロンや大王からは俊の暗殺命令を出され、妻からは噛みつかれるという苦労の絶えない望里も、愛に生きる蘭世を一番に応援する良き父であった。
そして、姉より冷静で賢い鈴世。姉のことに関しては誰より勘が鋭く、陽子に変身した蘭世に気づいたのも大量の蘭世の中から本物を見つけたのも鈴世だった。俊の蘭世に対する想いも敏感に察知しており、本当に聡明な子である。
また、俊以外にもイケメンが多かった本作。蘭世に恋した魔界の王子アロンやダーク=カルロ、王子と勘違いされた筒井圭吾などはその筆頭だ。筒井君は人間だが、蘭世の歌を作ったり蘭世の秘密を知った後も彼女を助けたりと一途。俊とも友情を築き、人の良さが前面に出ている。俊のカッコよさとは違うが、今考えると筒井君のようなタイプが一番幸せになれそうな気もする。