■究極のヒトコワ!歪んだ母の愛が子を追い詰める『メディア』
山岸作品には怪異以外にも、人間の闇を描く漫画も多い。中でも恐ろしいのが、1997年に『Amie』に掲載された『メディア』である。タイトルの「メディア」とは、他の女に走った夫への復讐のために、夫婦の間にできた子どもを殺したというギリシャ神話に登場する王女・メディアのこと。
同作は完全なヒトコワもので、母親の歪んだ愛と執着によって、主人公・有村ひとみが悲劇的な運命をたどる。
今でいうところの「毒親問題」に深く鋭く切り込んでおり、子離れできない母とその娘に待ち受ける地獄に息苦しくなること請け合いだ。
ひとみは、美しい容姿の高身長な女子大学生。ボーイッシュで、パッと見はイケメン男子である。両親はいるが父親は不倫をしており、母が離婚を認めないため別居中。母は夫の代わりとでも言うように娘に激しい執着心を向け、彼女の全てを掌握しようとしていた。ちなみにこの母が少女漫画らしい綺麗な人物ではなく、中肉中背で顔つきがやけに生々しいところも怖い。
「男に頼らず手に職を持って」と言いながら、夫親族のコネでひとみを就職させようとしたり、夫と親族の悪口を言いながら「絶対離婚しない」と言ってみたりと発言に矛盾も見られる。しかも、意見するとヒステリックになったり露骨に落ち込んだりするので対応も難しい。
自立したい娘と子離れできない母の溝は次第に深まっていく。ひとみは感謝の心は持ちつつも、人面魚になった母を殺す夢を見たときに「このままでは母を殺してしまう」と、自立を決意。こっそりバイトを始めて、海外への留学計画を進めていた。
だが、それも結局母にバレ、「私を騙したでしょ!」とヒステリーを起こされてされてしまう。歩み寄ろうとするも、理解されないことに悲しむひとみ。そして物語は、前述した「王女メディア」のように……一度見たら忘れられない、衝撃的なコマで締められるのだった。
山岸さんの描くホラー漫画を現代の人が読むと、比較的淡々としている印象を受けるかもしれない。だが、細いタッチの絵柄がとにかく怖い。救いのないラストの数々に暗い余韻が残るが、どの作品も素晴らしいのでぜひチェックしてみてほしい。