■魅力的なアンチヒーローの人となりが見える「ただのケンカしようぜ」

 主人公以外のキャラクターも魅力的な『幽☆遊☆白書』だが、やはり主人公の幽助抜きにこの作品は語れない。最後に紹介するのは、魔界編での幽助のセリフだ。

 人間を喰う、喰わないを巡った三妖怪の争いによって、長らく冷戦状態だった魔界。しかし三人のうちの一人・雷禅の死により、その均衡は崩れることになる。雷禅の息子である幽助は、妖怪の国を背負うリーダーでもあり、人間でもある難しい立場だ。

 しかし、そもそも雷禅は人間を喰うのをやめたせいで弱り、死んでいったのだ。息子としてその意志を継ぐのなら、当然ここで人間を喰わない派として戦うのが自然だろう。そうでなくとも従来のヒーローであれば人間界の平和を守るために戦うし、まず一人の人間として、人間を喰うことは推奨しにくいはずだ。

 しかし、ここで幽助は妖怪たちにこう提案する。「ただのケンカしようぜ  国なんかぬきでよ」と。

 要は、一番ケンカに強い者が魔界を治めよう、という提案だ。場合によっては人間界に大打撃を与えるものだが、幽助はそんなことは気にしない。ただ純粋に戦いを楽しみたい、それだけなのだ。

 この身勝手な提案は、幽助の価値観をストレートに表したセリフであると同時に、その魅力を最大限表現しているように感じる。

 人間の立場だけに寄らないフラットな物の捉え方。社会通念や一般的な倫理観で善悪の判断を下すのではなく、己の哲学を一本貫く姿勢。人々がこのアンチヒーローに魅かれるのは、そういうところではないだろうか。

 

 連載終了から30年以上たっても色褪せない『幽☆遊☆白書』。アンチヒーローが主人公をつとめる作品も増えてきている今こそ、”幽白”世代にはあの頃の熱さをもう一度体験していただきたい。

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