幽助に蔵馬、飛影も…『幽☆遊☆白書』3つの名セリフから振り返る「アンチヒーロー」ぶりの画像
『幽☆遊☆白書』25th Anniversary Blu-ray BOX 霊界探偵編(バンダイビジュアル)

 “ヒーローもの”とは勧善懲悪をテーマにした作品だと、古くから相場が決まっているように思う。強く、優しく、悪をくじき、品行方正で、常に”善”の基準であった。

 その流れをガラリと変えたのが、1990年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載が開始された冨樫義博氏による『幽☆遊☆白書』だ。主人公はケンカに明け暮れる不良少年、仲間は冷酷非情な妖怪たち。悪でこそないが、決して善でもない。そんな斬新なアンチヒーローたちが、この作品の人気を支えていた。

 今回は、アンチヒーローの元祖『幽☆遊☆白書』が、当時いかに斬新であったかを名セリフとともに振り返ってみよう。 

■優しさと冷静さの中に垣間見える冷酷さと激情「お前は「死」にすら値しない」

 優しくて冷静といえば、多くの読者はすぐに蔵馬を連想するだろう。妖狐でありながら人間の生みの母の幸せを願い、常にチームの良きまとめ役である蔵馬。しかし実際は、飛影ですら「敵に回したくない」と言うほどの冷徹酷さをあわせ持つキャラクターだ。

 それがよく表れているのが、仙水編での天沼、戸愚呂兄との戦いだ。天沼はまだ幼い少年で、実は仙水から都合よく利用されているだけの存在だった。蔵馬はそれを分かったうえで、天沼に心理的な揺さぶりをかけて完全勝利し、結果的に死に追いやる。

 敵の卑劣なやり口に怒りを感じながらも冷静さを失わない蔵馬は、その後も戸愚呂兄との戦いに勝利。幻覚作用のある植物を植え付けられ、死ぬことすら許されず、永遠に蔵馬の幻影と戦うことになった戸愚呂兄に対し、蔵馬が非情に言い放ったセリフは「お前は『死』にすら値しない」というものだった。

 自分が認めた相手には優しい半面、価値観や美学に反する者に対してはいっさいの情けをかけない。正義のヒーローとは言い難い、蔵馬の非情な一面が垣間見えるセリフである。

■本当の人生の始まりを祝う花束…怖くも美しい「ハッピーバースディ」

 続いて、飛影と軀のストーリーだ。

 軀は魔界を統一するほどの強さを誇るS級妖怪だが、幼いころは父親の痴皇の“玩具”にされていた。

 7歳の誕生日、軀は痴皇の興味を削ぐために自ら酸をかぶる。思惑通り捨てられて自由の身になったその日を、彼女は「本当の人生の始まり」とした。しかし、実際のところはそううまくはいかない。軀が痴皇に対して殺意を抱くと、親子のように温かな記憶が浮かんでしまうのだ。その葛藤が軀の強さの源であると同時に、枷にもなり続けていた。

 それを知った飛影は単独痴皇の元へ向かい、そこで突き止めた真相を軀に告げる。その記憶は痴皇が復讐防止のためにすり込んだ偽物である……と。

 そして、飛影は、これからその催眠を解除すると言い、リボンをかけた鉢植えを軀に見せた。そこには、寄生植物・ヒトモドキを植え付けられた痴皇の姿が……。ヒトモドキは宿主の肉体と融合しているため、宿主が傷つけば本能的に傷を治す習性を持つ。これは、宿主の脳を破壊しない限り、半永久的に生き続けるのだという。

 そこで飛影は言う。「好きなだけ切り刻め  気がすめば殺したらいい  ハッピーバースディ」と。

 父親から心身ともに痛めつけられた過去も、誕生日の花束代わりに寄生植物を植え付けた人間をプレゼントするのも、当時の少年誌ではあまりに斬新だったように思う。またその過激な内容とは対照的に、軀の穏やかで美しい表情が描かれているのも、なんとも印象的である。 

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