■突き進む荻原健太郎に起こる変化と手にしたもの

 一生懸命な健太郎だが、仕事が軌道に乗るにつれ「弟たちのためにお金を稼ぐ」という本来の目的が薄れていく。7話ではそんな萩原のターニングポイントとなる名シーンが生まれる。

 氷室浩介社長(石橋凌さん)からの「焦げた飯は好きか」という質問に、「好きだ」と言う健太郎。続けて「金持ちになりたいか」と問い、「金持ちになりたければ何かを捨てなくてはならない」と語る氷室。そして何を捨てるか問う健太郎に、彼は「まあ焦げた飯ってとこだな」と答えた。彼の言う「焦げた飯」は、貧乏ながらも楽しく暮らしていた家族のこと。氷室は様々なものを捨ててこの地位まで上り詰め、健太郎にも同じことを求めているのだ。

 一方の弟たちは貧乏だった頃の楽しい生活を想いながらも、兄を支えようと自分たちで助け合う。ゲームを万引きしたりケンカをしたりと問題行動も目立ち始めるが、ずっと兄を想い、小銭でネクタイを買うなど健気な姿を見せていただけに、仕事に気を取られ弟のことを疎かにする健太郎にモヤモヤしてしまう。 

 物語が大きく動いた後半。大沢が人生をやり直すために退職して土木作業員となり、美智子にプロポーズ。健太郎はロス本社の会長が倒れたことで、氷室とともに1年間ロスに向かった。

 出世した健太郎は帰国後、取締役営業本部長になる。家は高層マンションになりメイドまでつくが、やり手ビジネスマンとなった健太郎本人は、金でものを言わせたり弟より仕事を優先したりとまったくの別人になってしまった。このときの冷たい目つきはこれまでの健太郎から想像もつかないくらいシビア。ピュアな健太郎とダークな健太郎という織田裕二さんの2つの顔が見られるドラマでもあるのだ。

 11話で、健太郎は信じていた氷室に贈賄の罪を着せられ、逮捕される。氷室によって釈放されるが、本当に大切なものに気づいた彼は柏木らと氷室の不正を暴き、「僕は家族や愛を捨てたくない。僕は萩原健太郎なんです」と“焦げた飯”を守って会社を辞める。その足で美智子と大沢の結婚式会場に乗り込んで大声で告白し、ついに美智子と結ばれるのだった。

 お金のために大切なものを捨てるか、お金を捨てて大切なものを守るか。お金は確かに重要なものだが、『お金がない!』を見ると「幸せとはなにか、生きる上で本当に大切なものはなにか」に気づかされる。個人的には、結婚が破談になった大沢が芳本美代子さん演じる山岸京子と結ばれたことも嬉しかった。織田さん演じる主人公はもちろん、他キャストも見事なドラマだった。

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