■野際陽子さん演じる姑もヤバい! 賀来千香子さんが怯える姿はホラー感たっぷり!

 本作では、野際陽子さんが演じた姑・悦子のインパクトも凄かった。野際さんといえば、当時姑役としては右に出るものはいない女優であり、その圧倒的な存在感を見せつけた。

 悦子は息子・冬彦を深く愛しており、その愛情は常軌を逸している。冬彦が美和にどれほど理不尽な行動を取っても彼を叱ることはない。ときに冬彦を抱きしめて溺愛する姿にはゾッとしてしまったものである。

 またこの異常な親子関係に怯える美和の姿も印象的だった。賀来さん演じる美和が目を見開き、ハスキーな声で叫ぶ場面も多い。そのようなシーンはまるでホラー映画を見ているかのような緊迫感があった。この作品は本来純愛ドラマなのに、随所に恐怖をあおる演出も面白かったのである。

 物語の最終回では、冬彦が悦子を刺し、警察に逮捕される。その後、冬彦は美和に対し「ずっと前から好きだった」と告白し、ここでタイトル『ずっとあなたが好きだった』の真の意味が明かされる。つまり、美和が洋介のことをずっと好きだったという経緯から付けられたタイトルではなく、冬彦が美和をずっと想い続けていたというわけだ。このタイトル回収の巧妙さも視聴者を唸らせた。

 本作が90年代ドラマを代表するスマッシュヒットとなったことで、翌年にも賀来さんと佐野さんの共演で『誰にも言えない』(TBS系)という作品が放送された。このドラマで佐野さんは“麻利夫”という新たなキャラで登場し、こちらも最高視聴率が33%を超える大ヒットとなっている。

 

 本ドラマを視聴していた筆者は、当時冬彦のエキセントリックな演技に笑い、恐怖し、最後はちょっと感動的な気分にもなった。通常の恋愛ドラマでは得られない多くの感情に揺さぶられたものである。

 このドラマ以降、影のある夫が登場するドラマや、ストーカーをテーマにしたドラマが次々に誕生するようになった。『ずっとあなたが好きだった』は、そのような複雑な人間性を描いた作品の先駆けともいえるドラマであった。

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