『美少女戦士セーラームーン』に登場するタキシード仮面こと地場衛。黒いマント、シルクハット、白いアイマスクという目立つ外見で、戦闘力は低いが、セーラー戦士のピンチに駆けつけ、真っ赤なバラとステッキでサポートしてくれる頼れるヒーローだ。ちなみにタキシードと名乗っているが着ているのはタキシードではない。
“キザ”なのも、彼の特徴だ。特に『なかよし』で連載された武内直子さんによる原作漫画では、時に優しく寄り添い、時に冷たく突き放す場面も……。そんな甘辛ギャップに憧れてしまったという読者も多いだろう。
だが、その一方で、旧アニメのタキシード仮面はしばしば謎の行動をとり、視聴者を驚かせていたキャラでもあった。そこで今回は、アニメ『美少女戦士セーラームーン』でタキシード仮面が見せた面白行動を振り返ってみたい。
■セーラー戦士すら困惑?バラエティに富んだセリフたち
原作とアニメのタキシード仮面には、違いが多々ある。まず、原作は高校生だが、アニメは大学生。さらに、変身ではなく着替えていたり、戦闘時にバラを使用していなかったりといった違いがあり、行動や言動に関する違いも大きい。
アニメの名乗り口上はインパクトが強く、第1話での「泣いているばかりでは何も解決しないぞセーラームーン」というセリフから始まり、いつもキザな登場をしていた。応援だけで帰ってしまうこともあるが、彼の存在でセーラー戦士はもれなくやる気になるので、効果はテキメンだ。
『美少女戦士セーラームーンR』に入ると“謎の口上”が増える。15話では、アツゲッショと戦うセーラームーンの前で、「若い女の子の肌はピチピチしてフレッシュだ、厚化粧など意味がない」と誤解を生みかねない口上を述べた。直前にうさぎとの絶交宣言というシリアスな展開を迎えていたので、ギャップに驚く。
敵の持ち物に合わせた口上を述べるのも得意だ。18話では太鼓を使う妖魔に対し、「太鼓は打楽器、正しく使えば人の心を感動させる。それを武器に使うとは音楽芸術の恥さらし。どうせなら太鼓は楽しく叩いて『チャンチキおけさ』でも踊るがいいぞ」と4本のバラを投げた。ちなみに『チャンチキおけさ』は1957年にリリースされた三波春夫さんのヒット曲。見た目のイメージとは違う、なんとも渋いチョイスだ。
そして20話のスーパーマーケットでの戦闘時は、セーラームーンの口上「スーパーは庶民の健康の泉。新鮮な高原野菜やとろけるようなしゃぶしゃぶ肉が怒っているわ」をマネっこ。いつもはオリジナルで攻めるが、このセリフが気に入ったのだろうか。
『美少女戦士セーラームーンSuperS』1話では、カッコイイ口上とともに登場。だがタイガーズ・アイに「まあ……なあにその女ったらしのような格好……」と変な目で見られ、「黙れ。貴様に言われたくはない。私は悪を切り裂く一輪のバラだ」と強めの自己主張を入れながら怒りを露わにする。そんな彼に、もはや愛おしさを感じてしまう。
■ネタなの?ガチなの?謎が謎を呼ぶ登場シーン
ポエミーな口上も印象深いが、窓際に立ったり街灯の上に立ったりドアに片足をあげたりと、比較的高いところから現れる登場シーンも定番だ。
さらに『無印』10話では、暗黒世界での戦闘を終え、元の世界に戻る道が途絶えかけて焦るセーラー戦士の前に、路線バスに乗ってクラクションを鳴らしながら爽やかに登場。「運転手は私だ! 急げ!」と自己紹介も欠かさず、これに初対面のマーズは「カッコイイ……」とメロメロだった。
さらに記憶に残る登場シーンといえば、『SuperS』11話もそうだろう。ある日、「ぶらぶら」が口癖の妖魔・ブランコさんと対峙しピンチに陥ったセーラー戦士たち。一つの空中ブランコに掴まっていた3人が落下し万事休すと思われたそのとき、空中ブランコにぶら下がった逆さまのタキシード仮面が「ぶーらぶらー!」と言いながら現れ、みんなを救ったのである。登場セリフも「?」だが、真顔で言うところがよりシュールだった。
さらにこの回ではカッコイイ口上ではなく、「セーラームーン! また太ったな! 重いぞ!」とデリカシーのない言葉をストレートに投げかける。いつも女性に寄り添うタキシード仮面にしてはちょっと軽率だが、セーラームーンが「私のせいじゃないもん」と言うと、彼女に掴まっているマーキュリーとちびうさを見て察し、「すまん」と潔く非を認めていた。