■80年代の『りぼん』っ子は覚えてる?『耳をすませば』
1995年に公開された『耳をすませば』は、中学生のピュアな恋を描いた王道のラブストーリー。これまでの作品とはひと味違う素朴で爽やかな作風が人気を博した。
原作は、1989年に『りぼん』で連載された柊あおいさんの同名漫画。89年は『りぼん』が黄金期に差し掛かる頃で、柊さんは当時『星の瞳のシルエット』の連載を終えたばかり。『耳をすませば』も期待が大きかったが、残念ながら4話で打ち切りとなってしまった。
しかし、『りぼん』をたまたま読んだ宮崎監督が作品に惹かれ、映画化の話が進んだ。そして監督は宮崎さんの推薦によって故・近藤喜文さんが務め、宮崎さんは絵コンテや脚本などを担当している。
この映画版が原作と違う点はちょっと多めで、たとえば映画版で中3だった雫たちは原作だと中1で、進路の悩みもまだない。さらに姉・汐は高1で、なんと天沢聖司の兄・航司と恋愛関係。そして、猫のムーンは黒猫なうえに、ルナという雌猫もいるのである。
キャラ設定以外の大きな違いは、聖司の夢がバイオリン職人ではなく画家という点だろう。“音楽”というテーマが原作にはないため、『カントリーロード』の登場や、イタリア修行の展開もすべて映画版のオリジナルなのだ。原作では、雫が聖司のアドバイスで作家活動を始め、「完成したら絵をつけてほしい」と約束を交わして絆を深めていく。
ちなみに、映画版で注目を集めた聖司の「図書館で何度もすれ違ったの知らなかっただろ? 隣に座ったこともあるんだぜ」のセリフや、ラストの「結婚してくれないか?」という衝撃的なプロポーズも原作にはない。原作では、朝日を見ながら「今日もし会えたら言うつもりだったんだ 君が好きだ」と告白する爽やかな終わりを迎えている。
その後、宮崎さんの依頼を受けてバロン、ムーン、地球屋が登場する『バロン 猫の男爵』を書き下ろした柊さん。2002年にはこれを原作とした映画『猫の恩返し』が公開された。
今回紹介した3作を含め、宮崎監督の改変は大胆なものばかり。映画のみを見てきたという人も、この機会に原作に触れてみてはいかがだろうか。そのうえで改めて映画版を見直してみると、一周回って新鮮な驚きが味わえるかもしれない。