■目が怖すぎた…殺された妹の復讐を遂げるために犯罪を起こそうとする:佐伯五郎役の阿部サダヲ

 最後は、第9話「湾岸署大パニック 刑事青島危機一髪」に登場する佐伯五郎役の阿部サダヲさんだ。

 佐伯は、自身の妹がその夫に撲殺されるというむごい殺され方をした犯罪被害者の家族だ。この妹が殺された原因を作ったのは、夫の愛人である武下純子(安永亜衣さん)の存在だった。

 純子をマスコミから保護するため、一時、ガードすることになった湾岸署の面々。純子はかなり高飛車な女性で、見ているこちらがイライラしてしまうほどの強烈なキャラだった。

 さて、阿部さんといえば、今でこそ日本を代表する人気俳優だが、当時はまだブレイク前。大ヒットドラマ『マルモのおきて』で我が子たちもお世話になったが、それもこれから14年後のこと……。

 佐伯は妹の仇を討つため、純子を探しながら虚ろな表情で湾岸署をゆっくりとうろつく。普段から目力のある阿部さんだが、このとき完全に目が血走っており非常に怖い。

 そしてついに刑事課の応接室から出てきた純子を佐伯は見つけるのだ。BGMが止み、秒針の刻む音だけが徐々に大きくなる。無表情のままナイフを手にした佐伯は「お前も死んだ妹のところへ行け…」と、ぼそりと言うのだ。こんなの怖すぎるだろう……。

 しかも、本エピソードにおいて、阿部さんはこれが初セリフだった。思えば比較的騒がしいドラマなのに、ほとんど喋らない珍しいキャラだった。

 のちに阿部さんの存在を知ったとき、どこかで見たことのある顔だな……と思ったことを覚えている。本作の犯人役だったことが分かったときには、妙に納得したものだ。無表情のなかに、悲しさや憎しみを感じられる迫真の名演技だった。

 

 『踊る大捜査線』には、ほかにもさまざまな豪華ゲストが登場していた。今、振り返ってみても一話ごとにストーリーも面白く見応えがあり、やはり傑作だと感じる。

 今秋公開される映画では室井が主人公のようだ。どのような物語が紡がれるのか、今から楽しみである。

  1. 1
  2. 2
  3. 3