堀井雄二氏といえば、『ドラゴンクエスト』シリーズ(スクウェア・エニックス)の生みの親としてあまりにも有名なゲームクリエイター。人気漫画家・鳥山明氏によるアートワーク、国内有数の作曲家・すぎやまこういち氏によるBGMの魅力を最大限に活かすゲームデザイン・シナリオ構成をファミコン、スーパーファミコン時代に確立した氏の手腕は、多くのゲームファンが知るところだろう。
そんな堀井氏だが、1980年代前半までは、推理アドベンチャーゲームを中心に手がける “個人ゲーム開発者”だった。同時期に漫画の原作もこなしていたフリーライターとしての特性を生かした、物語性重視の作風は当時のゲーム業界で異彩を放ち、1983年から1985年の間に制作したPC用アドベンチャーゲーム3タイトルは、後に「堀井ミステリー三部作」(以下、ミステリー三部作)と称されるようになった。
今回は、そんなミステリー三部作を、オリジナルのPC版を中心に振り返ってみよう。
■「犯人は…」劇的な結末に衝撃を受けた『ポートピア連続殺人事件』
ミステリー三部作の記念すべき第1弾は、1983年にリリースされ『ポートピア連続殺人事件』(エニックス)だ。
プレイヤーは兵庫県警の刑事“ボス”となって、相棒の部下とともに消費者金融社長の密室殺人事件の捜査を進めていく。その過程で第二、第三の殺人事件が発生し……といった2時間サスペンスドラマ風の物語が展開する構成が、当時としては画期的だった。
1983年には堀井氏の愛機だったパソコン・PC-6001版(NEC)を皮切りに、PC-8801(同)、FM-7(富士通)、X1(シャープ)といった当時の国内主要8ビットPC版が、続々とリリースされた。しかし、多くのゲーマーの印象に残っているのは何といっても、1985年発売のファミコン版だろう。当時は、本作(あるいはナムコの『ドルアーガの塔』)で初めて“ゲーム攻略本”のお世話になった人も多いのではないだろうか。
PC版は、プレイヤーの行動(部下への命令)を、キーボードで単語を直接打つことで指定する、伝統的な「コマンド入力方式」が採用されていた。その一方、ファミコン版は「コマンド選択方式」を採用。難しそうなイメージが先行していたアドベンチャーゲームをシンプルに楽しめるよう、堀井氏がかねてより考案していたものであり(詳細は後述)、キーボードが標準搭載ではなかったファミコンと、実に相性が良いシステムでもあったのだ。
ファミコン版は、ROMカセットに収めるプログラムデータの容量が限られていた時代に出た、同ハード初のアドベンチャーゲームということもあり、進行状態のセーブ機能がないなど、“万全の原作再現度”というわけではなかった。そのかわり、独自のストーリー展開とともに、3Dマップを探索するパートが追加されるなど、ファミコン版でしか体験できない“遊び”も多数追加されている。
それまでPCの専売特許状態だった“思考型(≒非アクション)ゲーム”が、1980年代後半以降コンシューマーハードでもコンスタントにリリースされるようになったことからも、本作の先見性が抜きん出ていたのは明らかだ。
予想外の展開に転がっていく物語と、結末の衝撃の強さがひとり歩きし、あからさまなネタバレフレーズがネットミーム的に流布するなど、現在も高い知名度を持つ『ポートピア連続殺人事件』。原作に近い内容を現行プラットフォームでプレイできる環境はないが、2023年には同作のリリース40周年を記念した、AI技術(自然言語処理)のテックプレビュー用ソフト『SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE』がSteamで無償公開されている。