■北海道を舞台にした本格ミステリー『オホーツクに消ゆ』

 そして、第二弾となったのは、1984年リリースの『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』(ログインソフト/アスキー)だ。

 東京湾の埠頭に上がった死体が、北海道各地に及ぶ殺人事件の連鎖の引鉄となる──前作『ポートピア連続殺人事件』で開拓された物語性重視のゲーム展開を、実在する観光スポットを巡る旅情とともに楽しめるミステリーだ。

 原作・ゲームデザイン・シナリオを担当した堀井雄二氏と、月刊PC情報誌『ログイン』の編集者による、北海道でのシナリオハンティング(※物語の着想を探すための取材)の様子が同誌で記事化されるなど、制作状況自体がコンテンツ化されたことでも注目を集めた。

 ゲームシステム面での特徴は、後のファミコン版『ポートピア連続殺人事件』にも採用された「コマンド選択方式」をいち早く採用していた点だ。従来のコマンド入力方式アドベンチャーゲームにあった、同じ単語を毎回入力する面倒くささを解消するとともに、ともすれば“正解の単語探し”に収束しがちな同ジャンルのゲーム性に一石を投じたという意味においても、画期的だった。

 ムービーパートで物語を展開するリッチなゲームの台頭、新機軸ゲームジャンル“ビジュアルノベル”の登場などにより、コマンド選択方式のアドベンチャーゲームは徐々に廃れていくのだが、堀井氏のライフ・ワークであるRPG『ドラゴンクエスト』シリーズ(1986年~)の戦闘シーンには、オーソドックスなコマンド選択システムが継承されている。

 当時のPCゲームとしてはまずまずの売れ行きだったという本作だが、現在まで語り継がれる名作となったのには、やはり1987年リリースのファミコン版の存在が欠かせない。単なるアレンジ移植に留まらず、事件の真相に関わる部分を含めた後半部のストーリーが大幅に見直されるなど、堀井氏をはじめとする開発スタッフの「“決定版”を制作しよう」との意気込みが、そこかしこで感じられる完成度だった。

 『ログイン』や、1986年創刊のファミコン情報誌『ファミコン通信』で活躍していた気鋭イラストレーター・荒井清和氏による、キャッチーなキャラクターデザイン。『オホーツクに消ゆ』のPC(PC-6001、MSX)版のプログラムを担当した同誌ライター・上野利幸(ゲヱセン上野)氏による、エモいフレーズ揃いのBGM。これらの要素によって、プレイ体験がより印象的なものになっている。

 加えて、トランプを使ったミニゲームを遊ぶシーンや(対戦相手の北海道警刑事・シュンが強い!)、温泉に入浴中の女性キャラ・めぐみが身体に巻いているバスタオルがなくなる裏技の存在……など、遊び心ある演出が随所に盛り込まれ、エンターテインメントとしての満足度が高かったことも大きい。

 2024年9月12日には、ファミコン版の主要スタッフも制作に携わったリメイク作『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』(Nintendo Switch/Steam)が、ジー・モードから発売。堀井氏監修の新ストーリーの追加、豪華声優陣による全編フルボイス……など、長年のファンにとっても見逃せない内容だ。

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