『踊る大捜査線』シリーズの新作映画が今秋公開を控えていることもあって、思い出されるのがテレビドラマ放送時の和久平八郎の雄姿だ。
いかりや長介さんの名演技もあり、「和久さん」と呼ばれる現場一筋の刑事は、湾岸署メンバーにも大きな影響を与えている。そこで今回は、後の映画シリーズにもつながる和久さんの名言を振り返ってみよう。
■現場一筋だからこそ深みがある!「正しいことをしたければ偉くなれ」
織田裕二さんが演じる主人公・青島俊作は脱サラした刑事で、胸に熱い信念を持っている。所轄署と警視庁の軋轢にも真っ向からぶつかり、周囲を困らせることもしばしば……。
そんな青島に響いた和久さんの言葉のひとつが、「正しいことをしたければ偉くなれ」である。これは第7話「タイムリミットは48時間」で初登場している。
青島は大麻の売人である岩瀬修を追うべく、厚生省(現:厚生労働省)に出向している大河内に情報を求めた。大河内はかつて世話になった和久さんへ恩返しがしたいからと、それが規則違反と理解しながら、青島に岩瀬の情報を提供する。
そのとき大河内は青島に対し、和久さんから杉並署で最後に言われた「正しいことをしたければ偉くなれ」という言葉を今でも忘れていないと、彼に伝えてほしいというのだ。
青島はその意味が分からず、和久さんに直接聞いてみても“正しいことをしたければ偉くなって警視庁へ行け”と言われるだけだった。
その後、第11話「青島刑事よ永遠に」では、柳葉敏郎さん演じる管理官・室井慎次が青島との単独捜査の際に懲戒免職を覚悟し、「本庁と所轄の枠を取り払って 捜査員全員が正しいと信じたことを出来るようにしたかった」と言う。青島はこのとき和久さんの言葉を思い出してハッとし、“何かを変えるには、外ではなく中にいる人間が何かしなくてはならない”ことに気付く。
そのためには警察組織の中で出世して、改革を実行できる立場になるのが必要だ。後の映画シリーズでは室井がどんどん出世していき(途中広島県警察本部へ異動)、ついには警察庁長官官房審議官(警視監)にまでのぼりつめる。
映画シリーズでは、青島は偉くなった室井を信じて行動し、室井も青島や所轄を信じて責任を取る覚悟を見せる。偉くなった室井の立場で指揮を取らなければ、事件の早期解決は無理だったに違いない。
■犯人確保も命がけ!現場に血が流れてしまう…「逮捕の時が一番危険なんだ」
和久さんは八王子署勤務のとき、後輩の刑事が殉職するという経験をしている。この件は定年を迎える彼にとって何としても解決したい「たんこぶ」のような事件であり、「逮捕する瞬間が一番危険なんだ」ということを教えられなかったのをずっと悔やんでいる。
第7話では青島がそれまでずっと追っていた岩瀬の居場所をつかむが、電話で連絡を受けた和久さんが「俺が行くまで手出すな」「逮捕の時が一番危険なんだからな」と青島に伝える。実際、ホテルで確保する時に岩瀬はナイフを取り出しており、取っ組み合いになっていた。
その後のドラマでは9話で青島が胸を刺され、10話で真下が腹部を撃たれているが、ともに犯人と接触したときに負傷していた。そして、映画シリーズでは青島が被疑者の母親に包丁で刺され、恩田すみれが肩に銃弾を浴びて、現場に血が流れるほどの重傷を負っていた。
特に青島が被疑者の母親に刺された『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』では、被疑者に拉致された和久さんが救出にきた青島に「逮捕の時は…」と言い、青島も心得たように「気を付けろ」と笑顔で応えていた。
そんなやりとりをしたうえで刺されてしまうのだから、やはり逮捕の瞬間というのは命がけなのだろう。それはそうかもしれない、犯人側も追い詰められて正常な判断ができないのだ。警察官は大変な仕事なのだと、つくづく思ってしまう。