PlayStation(PS)用ソフト『ぼくのなつやすみ』は、田舎の親戚のもとに預けられた少年の“ひと夏の思い出”を追体験できる、アドベンチャーゲームだ。
日本の原風景や夏休みのさまざまなイベントを楽しむことができる人気作だが、本作はとある強烈な“バグ”があったことでも有名である。
今回は、今もなお「ゲーム史上もっとも怖いバグ」として語り継がれる、“8月32日”の全貌について語っていこう。
■PS用ソフト『ぼくのなつやすみ』とは
2000年に登場したPS用ソフト『ぼくのなつやすみ』は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)から発売された。プレイヤーは主人公である9歳の少年“ボク”を操作し、1カ月間の夏休みを都会から離れた田舎で過ごすこととなる。
ゲーム内での明確な目標は存在しておらず、プレイヤーは自由気ままに架空の田舎「月夜野」を駆け巡り、昆虫採集や魚釣り、洞窟探検といった、さまざまなアクティビティを楽しむことができる。
いわゆる“箱庭ゲー”というジャンルに該当する作品で、イベントをこなしたりキャラクターと交流することで徐々に行動範囲も広がり、遊ぶほどに新たな発見があるのも面白かった。
薬用ハンドソープ『キレイキレイ』のCMキャラを手掛けた上田三根子さんがデザインする親しみやすいキャラクターや、時間経過ごとに異なった顔を覗かせる自然の風景など、田舎特有のゆるやかな時の流れに癒されること間違いなしの作品だ。
そして、1日の終わりには、ボクがその日に体験した出来事を「絵日記」にしたためる。のびのびと描かれたイラストと、子どもならではの目線で書かれた感想文は見ているこちらまでほっこりとさせられてしまう。
子どもはもちろん、大人もその懐かしい世界観に心癒されてしまうゲームなのだが、ボクが1日の最後に書くこの「絵日記」にこそ、プレイヤーを震撼させるとんでもない“バグ”があったのだ……。
■ありえない“夏休み”のはじまり…“8月32日”バグ
上述したように『ぼくのなつやすみ』は、一人の少年が田舎でおくる“夏休み”を追体験するゲームなのだが、“8月31日”を迎えると夏休みが終わってしまうため、そこでゲームもエンディングへと突入する。
ゲーム内の行動によっていくつかパターンが分かれはするが、ボクは名残惜しみながらも、思い出が詰まった「月夜野」の地を離れることとなる。
しかし、“とある条件”を満たすと、エンディングに突入せずに8月31日の先……すなわち、存在しない“8月32日”へとゲームが進行してしまう“バグ”が存在している。
本来、1日の終わりに絵日記を書く画面では、画面左上の「電気スタンドのヒモ」を選択することで絵日記を書いて寝ることができ、次の日へと時間軸が移行する。この「電気スタンドのヒモ」、昼間は画像がないため存在していないように見えるのだが、実はしっかりと“判定”だけが残っており、プレイヤーはなにもない空間を選択することができるのだ。
要は、夜に限らず問答無用で次の日へと進むことができるのだが、ゲームのクリアのデータから確認できる「絵日記」画面でこのバグを利用すると、本来は存在しない“8月32日”が始まるのである。
あり得ないデータを無理やり読み込む影響から、“8月32日”はとにかく奇怪な現象が、そこかしこで起こり出す。作中の文字が徐々に崩れ始め、登場人物たちのグラフィックが壊れるなど、平和だったはずの田舎はまるで“異世界”のような不穏な空気に包まれていくのだ。
人の姿が消えた田舎は本編とは打って変わって不気味で、そのままプレイを続けると普段は入れない空間に移動できたりと、世界観が完全に壊れてしまうのである。
“バグ”によって巻き起こされる無秩序な世界は、これまでのほのぼのとした空気とはあまりにもかけ離れたもので、この“8月32日バグ”は多くのプレイヤーにトラウマ級の恐怖を植え付けることとなった。