『踊る大捜査線』堅物エリートから正義の人へ…警察官僚・室井慎次を変えた「湾岸署メンバー」の影響の画像
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望 スタンダード・エディション』 [DVD](ポニーキャニオン)

 2012年に公開された劇場版『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』から約12年。今秋『踊る大捜査線』の新作映画が2部作で公開される。

 今回の映画では織田裕二さん演じる青島俊作ではなく、柳葉敏郎さんが演じる元警察官僚・室井慎次が主人公だ。シリーズの再始動にファンはワクワクしているのではないだろうか。

 ドラマ当初、室井は現場を軽視していた警察官僚であったが、青島たち湾岸署メンバーとかかわるうちに徐々に現場への理解を深めていくようになる。そこで今回は、警視庁刑事部捜査第一課管理官だった室井が、湾岸署メンバーから受けた影響を1997年放送のドラマから振り返ってみよう。

■政治の駆け引きだったのに…信念を持った青島の行動に共感を抱く

 第3話「消された調書と彼女の事件」では、女子中学生が後ろから倒され、バッグを盗まれる窃盗事件が発生する。しかしこの被疑者は、建設省官房次官の息子だった。警察の上層部はもみ消しを図るため、指示された室井が湾岸署に赴くこととなる。

 この事件を担当したのは、男が女を襲うことを断固として許さない女刑事・恩田すみれ(深津絵里さん)だ。

 しかし事情聴取では弁護士の入れ知恵により、何を聞かれても「僕がやりました 反省してます」と、繰り返す被疑者。記録上は“初犯”であるうえ、“反省”の意を見せているので不起訴は確実……。愕然とするすみれだったが、釈放された途端「パパにお礼を言わなきゃ」と口走った被疑者の言葉についに青島が怒り心頭、被疑者に掴みかかる。

 立場上、その場では青島を止めに入っていた室井だが、被害に遭った女性の立場に立ち、被疑者を問い詰める彼の言葉に思うところがあったのだろう。その後、“刑事に暴力を受けた”と被疑者がわめきたて、弁護士から暴力があったのかと問われるも「何もありませんでした」と青島を庇った。さらに「裁判にかければマスコミにバレるぞ!」と、半ば脅して声を荒げる珍しい姿を見せていた。

 キャリアとしての顔ではなく、根底にある室井の心意気が見えたシーンだ。

■凶悪事件よりも己の正義を優先する青島に感化される

 第4話「少女の涙と刑事のプライド」では、警視庁に青島を呼び、応援捜査員として連続強盗傷害事件の凶悪犯の捜査に同行させた室井。

 被疑者を逮捕するために潜入したクラブで、青島は少女が別のチンピラの男に暴行を受けている現場を目撃する。凶悪犯の確保を優先するため室井は、青島に「動くな」と釘を刺すのだが、殴られて流血し助けを求める少女を放っておけず、青島は男を押さえつけ確保。だが、店内は騒然となり被疑者は逃亡してしまった。

 室井は激怒し、命令違反を問い詰めるが、“事件に大きいも小さいもない”、“凶悪事件のために人を救えないならこんなものはいらない”と、青島は警察手帳と手錠を投げ捨てる。

 結局、逃げた凶悪犯は湾岸署メンバーによって捕らえられ、無事逮捕となった。処分されてもおかしくない青島だったが、その後、室井は彼の警察手帳と手錠を湾岸署の立ち番をしていた森下巡査に落とし物として届ける。

 室井に憧れる森下は、自分も秋田出身であること、いつか捜査一課に呼ばれて下で働きたいという目標を嬉々として口にする。普段は無口な室井も「そっか…一課できりたんぽ鍋でもつっつくか」と、言葉を返すのだ。彼のなかで何か心境が変わったといえる、印象的なシーンだ。

 事件解決後、青島に「私の下で働いてほしかった」と本音を漏らしていたが、室井がこの事件でわざわざ青島を捜査一課に呼び寄せたのは、実績や出世のことしか頭にないほかの刑事たちとは違う人物だと見込んでのことだった。立場は違えど、青島との信頼関係がより深まるきっかけとなるエピソードだ。

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