松本零士さんが手がけた珠玉のSF大作『銀河鉄道999』(1977年連載開始)は、機械伯爵に母を殺された少年・星野鉄郎が、謎の美女・メーテルに導かれながら、銀河特急列車999号で星々を旅する物語だ。
ふたりが降り立つ惑星は地球の常識が通じない場所も多く、人々が化石化した星や、意思を持つ海のような星などもあった。
そんな作品のなかで、とくに奇妙な話が多かったのが「虫」にまつわるエピソードだろう。
松本零士さんの作品を振り返ってみても、『インセクト』、『昆虫皇帝』、『ちいさなマキ』のような昆虫世界を題材としたものが多く、過去には昆虫学者・矢島稔さんとともに、『昆虫おもしろブック』(光文社/1997年刊行)の著者名に名前を連ねたことも。
そこで今回は『銀河鉄道999』の作中で思わず「ゾッ」とした、虫たちが猛威を振るう星々のエピソードを紹介する。
■巨大カブトムシが鉄郎を襲う『タイタンの眠れる戦士』
最初に紹介するのは、「タイタンの眠れる戦士」というエピソード。何をしても個人の自由という法律の惑星タイタンでは、列車から降りてすぐにメーテルがさらわれ、鉄郎も銃で撃たれてしまう。手当てをしてくれたおばさんから息子の形見である「銃」と「帽子」を借りた鉄郎は、メーテルの救出へと向かった。
メーテルが連れ去られたぶどう谷まで、小舟で向かう鉄郎。すると突如、機械人間が操るカブトムシにも似た巨大甲虫が「ブブブブ」と不気味な音をたてながら襲いかかってくる。
それは昔の「鷹狩り」の要領で、虫を使って人間をハンティングする「虫狩り」という行為だと説明されていた。子ども時代に昆虫採集をした経験がある人は、思わずドキッとさせられた場面だ。
さらに鉄郎を追いつめる機械人間からは、「肉だんごにしてトロリとにこんでやるぜ!」という物騒な発言が飛び出す始末。巨大なカブトムシの硬い装甲に通常の銃は効かなかったが、おばさんに借りた「戦士の銃」を取り出すと、なんと一撃でカブトムシの体はバラバラになった。
そして機械人間も倒し、無事メーテルを救出した鉄郎は、おばさんの好意で借りていた品々を譲り受けることになる。つまり、鉄郎のトレードマークである「穴あき帽子」と「戦士の銃」は、このエピソードで入手したものだった。