■涙なしでは見られない…蟻として生まれ人として死んでいった“王”メルエム

 最後は、作中トップクラスの強さを誇り、人類を恐怖のどん底に突き落としたキメラ=アントの王・メルエム。その圧倒的な強さに絶望感を覚えつつも、彼の威厳に満ちた姿と生きざまは非常にカッコよかった。そんなメルエムの死は、名エピソードとしても名高い。

 鍵を握るのは、メルエムが暇つぶしにと盤上競技に興じていたときに出会った全盲の軍儀世界チャンピオン・コムギ。これまであらゆる勝負で負けなしだったメルエムは、コムギに手も足もでないことに苛立つが、次第に彼女に対して言葉にできない感情を抱き、価値観にまでも変化が起こり始める。

 とはいえ、彼の本質は王であり、自分の中に芽生えた感情に大いに動揺した。しかし、コムギに名前を聞かれても答えられなかった時から、「余はなんのために生まれてきたのだ」と存在意義にも疑問を抱き始めていく。

 その後、ハンター協会会長であるネテロとの一騎打ちになったメルエムは、激戦の末に、猛毒を食らう。死を悟った彼が取った行動は、命尽きるときまでコムギと過ごすことだった。

 このときのメルエムはもはや独裁者ではなく慈愛に満ちた王。そして、ひたすらにコムギを求める1人の男だった。

 メルエムは、軍儀を打ちながら自身が侵された毒が伝染することを告げ、「最期を…コムギ お主と打って過ごしたかった」と初めて気持ちを吐露する。それを聞いたコムギは、「ワダす…今…とっても幸せです 不束者ですが お供させてください」と笑顔を見せた。

 毒が回り視界が途絶えるように、真っ暗な数ページにセリフだけが描かれて演出されたこの後のシーン。気持ちが通じ合ったこの瞬間、2人は「自分はこの時のために生まれてきた」と人生の意味を見出し、軍儀を打ちながら幸せに包まれて息絶えるのだった。これまでの全ての伏線を回収する一連の流れは素晴らしく、消えゆく2人の掛け合いは涙なしでは見られない美しすぎるものだった。

 このほかにも、カイト、ゴトー、ネテロ会長など魅力的なキャラが次々と衝撃的な死を遂げる。だが、それも同作の良さであり、だからこそハラハラドキドキできるのだ。本編は現在、暗黒大陸への渡航中に行われる「王位継承編」の真っ只中。登場キャラは数百名にもおよぶ。生き残れるのは誰か、物語の続きを楽しみに待ちたい。

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