■華やかな芸能界にも憧れた『ハンサムな彼女』
最後は、1988年から『りぼん』で連載されていた吉住渉氏の漫画『ハンサムな彼女』を振り返りたい。同作は芸能界を軸に繰り広げられる恋愛物語で、主人公は女優として活躍する萩原未央。映画監督を目指す熊谷一哉に恋をした彼女は、三角関係になったり芸能界の問題が起こったりと一筋縄ではいかない恋に翻弄されながらも、一哉への想いを貫いていく。
名キスシーンは、コミック7巻で描かれた“ロスの一夜でのキス”。このとき一哉は、映画監督のアーサー・クライトンのもとで撮影技術を学ぶためアメリカに渡っていて、二人の間には距離があった。
アーサーの息子のキースからアメリカで一緒に組もうと誘われた一哉は、キャリアと恋の間で揺れる。一方、何も知らない未央は撮影でロスに行き、一哉をサプライズ訪問するが、ホテルにもスタジオにもおらず会えなかった。携帯電話が普及していない時代のもどかしさを感じる一コマである。
何とか会えた二人はロスデートを満喫し、キース宅に泊まることに。未央は、同室の一哉に緊張するが、そんな未央を見た一哉がキースの部屋に行こうとすると覚悟を決め、「いっしょに…いて…」と抱きつく。そして、見つめ合った二人は無言でキスを交わすのだった。
このシーンは1ページ3コマの中に2回のキスが描かれている。セリフがないので、より未央のドキドキや二人の想いが伝わる名シーンだった。結局部屋は別になるが、ついに大人の階段を登るのかと読者をドギマギさせたエピソードでもある。
これらの作品をリアルタイムで読んでいた読者は、主人公たちの身に起こる恋のトラブルや王道のラブ展開に夢中になったものだ。様々な恋愛経験を経て大人になった今、改めて振り返ってみてはいかがだろうか。