若者の憧れとなったタカ&ユージのファッション

『傷だらけの天使』(日本テレビ系:1974~1975年)は日本のバディもののアクションドラマにおいて、偉大なるパイオニアである。探偵社の調査員を演じる萩原健一と水谷豊の掛け合いは、『あぶない刑事』の源流を見出すこともできる。同時にこのドラマは、男性俳優が着用する衣装のブランドに視聴者が憧れた最初の例だと考えられる。

 クレジットの衣装協力として「ビギ」というブランド名が表示された。萩原健一演じる木暮修は、創業デザイナーの菊池武夫が手掛け、メンズラインが「MEN’S BIGI」として独立する以前の「BIGI」の服を着ていたのである。番組の人気とともに、「BIGI」は多くの若者の憧れの対象となるのだった。

 ただし、そうした現象は以後、テレビ界のスタンダードになっていない。たとえば、『爆走!ドーベルマン刑事』(テレビ朝日系:1980年)で加納(黒沢年男)が着ていた革ジャンが売れた、若者が『噂の刑事トミーとマツ』(TBS系:1979~1981年、1982年)のマツ(松崎しげる)のファッションの真似をした……そんな話は聞いたことがない。

 ところが、『あぶない刑事』では『傷だらけの天使』と同様の現象が起きた。柴田恭兵は「MEN’S TENORAS(メンズティノラス)」(※1)、舘ひろしは「TETE HOMME(テットオム)」と、いわゆる “DCブランド” の衣服を着こなしていた。エンドクレジットにブランドロゴが表示されることで、それが憧れの対象になったのである。その他、サングラス、腕時計、シューズ、ライターやマッチなどの小道具もまた『あぶない刑事』が“あぶない刑事”たる要素だった。(※1 柴田恭兵は『あぶない刑事リターンズ』(1996年)以降、「MASATOMO」の衣服を着用)

 このように、『あぶない刑事』は刑事ドラマとしての新機軸を打ち出し、その特異性は多くの人を惹きつけた。刑事が死なないストーリーライン、生活感を避けた設定、革新的な音楽使用、そしてファッションに至るまで、多岐にわたる要素で既成の枠を超えた。この独自のアプローチは、その後の数々の刑事ドラマにも影響を及ぼしたが、結局『あぶない刑事』を超えるような作品は生まれなかった。

 そして日本の刑事ドラマは『古畑任三郎』(フジテレビ系)、『踊る大捜査線』(フジテレビ系)、『ケイゾク』(TBS系)、『科捜研の女』(テレビ朝日系)、『相棒』(テレビ朝日系)、『アンフェア』(フジテレビ系)、『ハンチョウ~神南署安積班~』(TBS系)、『時効警察』(テレビ朝日系)、『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)、『緊急取調室』(テレビ朝日系)など、まったく異なる方向で発展していった。

 だからこそ、「あぶない刑事』は今に至るまで唯一無二の作品として愛され続けているのである。

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