どこまでもスタイリッシュ…皆無の「生活感」

『太陽にほえろ!』の初期、マカロニはタバコ店の2階に下宿しており、大家さん(賀原夏子)とのカラミがあった。ジーパンには母親(菅井きん)が登場し、畳の部屋で一緒に食事をするシーンがある。のちの刑事ドラマの若手刑事像に大きな影響を与えた2人は、どちらも生活感が充満した空間で暮らしていた。

 また、『西部警察』の大門は漫画家の妹(古手川祐子)と一緒に住んでいて、兄妹で世間話をしながら一緒に朝食をとるシーンは定番だった。パジャマ姿も披露したこともある。

『Gメン'75』(TBS系:1975~1982年)や『特捜最前線』(テレビ朝日系:1977~1987年)などでも頻繁に刑事の家族が登場する。

 これに対し、『あぶない刑事』は生活の匂いや日本的な要素を徹底的に避けた。タカとユージの家族についての情報がセリフで漏らされたことはあったが、それが実際に画面に出てくることはない。

 そもそも、2人がどこに住んでいるかもわからない。小料理屋が刑事たちのたまり場になっていない。タカが読んでいるのは英字新聞である。横浜が舞台であることも手伝い、『あぶない刑事』は無国籍で非日常的な独自の空気を醸成させたのである。

 ちなみに、映画『さらば あぶない刑事』(2016年)には、タカの婚約者(菜々緒)が登場した。それは、極めて珍しいプライベートの公開だった。新作映画『帰ってきた あぶない刑事』には、タカもしくはユージの娘らしき人物(土屋太鳳)の登場がプロモーションされている。もし、本当に娘なのだとしたら、初めて登場する「家族」ということになるが……。

世界のトレンドを取り入れた「番組音楽」

 元ザ・スパイダースの大野克夫が手掛けた『太陽にほえろ!』のオープニング曲は、当時としては画期的であり、それまでの刑事ドラマにはなかったロックバンドによる演奏だった。

 そして『特捜最前線』のチリアーノ『私だけの十字架』、『非情のライセンス』(テレビ朝日系:1973~1977年、1980年)の天知茂『昭和ブルース』など、刑事ドラマの哀愁を帯びたエンディングテーマも味わい深い。

 また、『大追跡』(日本テレビ系:1978年)や『大激闘マッドポリス’80』(日本テレビ系:1980年)の音楽は、『ルパン三世』で知られる大野雄二によるジャズやフュージョンのテイストを感じる洗練されたものだ。

 どれがいい悪いではない。どれもいい。しかし、『あぶない刑事』テレビシリーズの音楽は、そのどれとも似ていなかった。

 舘ひろしが作曲した明るいオープニングテーマ曲で始まり、アクションシーンでは柴田恭兵が歌う『RUNNING SHOT』、『WAR』、『TRASH』が疾走感を演出し、ラストは舘ひろしが歌う『冷たい太陽』、『翼を拡げて~open your heart~』がドラマの余韻を引っ張った。

 そして、もっとも新しかったのは、BGM的に流れる挿入歌群である。それまで、刑事ドラマの挿入歌というのはあまりなかった。ボーカルの入ったエンディング曲がそのまま流れるケースが多かった。『大都会 PARTIII』(日本テレビ系:1978~1979年)や『西部警察』では、刑事たちが集うスナックで女性歌手がギターを爪弾きながら歌う演歌調の曲が挿入歌だった。

 一方で『あぶない刑事』は、(柴田恭兵の歌は別物として)挿入歌に関して、日本の刑事ドラマが過去にやっていないことをやった。

 80年代、アメリカでは『フットルース』(1984年)、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)など、サントラに様々なミュージシャンが参加する映画が人気を呼んでいた。同じくテレビ界ではポリスアクションドラマ『マイアミ・バイス』が、同様のオムニバス形式のサントラを出して大ヒットさせていた。これはMTVブームとも連動した現象である。

『あぶない刑事』はこの流れにいち早く乗った。EPIC・ソニーと手を組んで、小比類巻かほる、鈴木聖美、鈴木雅之、トミー・スナイダー(ゴダイゴ)ら多くのミュージシャンによるオリジナル挿入歌を作り、サントラを制作。それらの各曲をドラマのシチュエーションに応じて流していた。

 1985年の時点で、刑事ドラマに限らず、日本のテレビコンテンツでそんなことをやったのは『あぶない刑事』だけである。いずれの収録曲も英語詞で、一貫したテーマはスタイリッシュであることだ。80年代の若い恋人たちのドライブデートのBGMとして成立するようなものだった。そこは『西部警察』の挿入歌と著しく違う点だといえる。

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