1968年の創刊以来、読者にドキドキとワクワクを届け続けている『週刊少年ジャンプ』。1980年代から90年代にかけては「ジャンプ黄金期」と呼ばれた時代で、1995年の3・4合併号は発行部数653万部という歴代最高の数字を叩き出した。
その後、1997年には『週刊少年マガジン』に発行部数が追い抜かれ、そこから連載作品も大きく変わっていく。1997年に『ONE PIECE』、1999年に『NARUTO-ナルト-』、2003年に『銀魂』と、後の長期連載漫画がスタートするが、その一方で2010年頃は、短期間で終了してしまった新連載作品も少なくない。
そのため、この時期の『ジャンプ』は、ファンの間で「暗黒期」と称されることもある。しかし、そのなかには、短命ではあるもののその後の人気作家たちによる作品が多く、今あらためて読むべき漫画も存在する。そこで今回は、「暗黒期」とは思えない、2010年付近の短期連載漫画をいくつか見ていこう。
■麻生流ギャグが凝縮された『新世紀アイドル伝説 彼方セブンチェンジ』
まずは2009年51号からスタートした、麻生周一氏の漫画『新世紀アイドル伝説 彼方セブンチェンジ』。同作は麻生氏の2回目の連載作品で、この後、2012年に大ヒット作『斉木楠雄のΨ難』を生み出している。
ストーリーは、お笑い芸人を目指しながらオーディションでアイドルとして見染められてしまったイケメン・蒼希彼方と、正統派アイドルグループとして育てたいマネージャーが繰り広げるギャグコメディだ。
後半は「ゲーラ(芸能人オーラ)」を貯めてライバルグループを倒すというバトルに突入し、作品は13話で終了するが、終盤はかなり駆け足になっている。しかし、最終回は描き方も突き抜け方も斬新であり、後の『斉木楠雄のΨ難』にも通ずる麻生氏らしい笑いがギュッと詰まった作品となっていた。
■不思議な力を持つ犬が織りなすハートフル物語『賢い犬リリエンタール』
2009年42号には、後に『ワールドトリガー』を手がける葦原大介氏の初連載作『賢い犬リリエンタール』が始まった。連載期間は2010年23号までの全32話と長くはないが、今なお名作としてファンが多い作品の一つである。
同作は、超能力を持ち人の言葉を話せる不思議な犬・リリエンタールが、“弟”として送り込まれた日野家の兄妹と織りなすハートフルSFストーリー。リリエンタールを狙う悪の組織との戦いや周囲の人々とのほっこりするやりとりなど、サクッと読める短さながら構成がきめ細かで奥深い作品だ。
リリエンタールは、混じりっ気のない優しさで溢れていた。敵も味方も関係なく、誰に対しても真っ直ぐな言葉を伝える彼に胸を打たれた読者も多いだろう。
さらに、登場人物が一人ひとり個性的で、皆が穏やかで温かい。それは悪の組織も例外ではなく、全てのキャラに愛着が湧いてくるのである。子ども向けの漫画ではあるが、大人が読んでも読後に心の中がほっこりすること請け合いだ。
■新感覚の学校の怪談?『詭弁学派、四ツ谷先輩の怪談。』
2010年に入ると、8本の新作漫画がスタートした。その一つが、大人気バレーボール漫画『ハイキュー!!』の生みの親・古舘春一氏の初連載漫画『詭弁学派、四ツ谷先輩の怪談。』だ。同年13号からスタートした同作は、『ジャンプ』の中でも異色の作品で、タイトルにもあるように怪談話がテーマの学園ミステリーホラー漫画である。
主人公の四ッ谷文太郎は、なぜか学校の屋上に居座っている都市伝説的な人物だ。“最恐の怪談”を求めるという強い目的があり、演出・語り・聞き手を使って自ら怪談を創り上げ、様々な問題を解決していくのだが、年齢も不明で謎が多い。
全18話と短いながら、四ッ谷先輩が創り上げた学園七不思議や巻き起こる猟奇事件などは、ホラーとしての怖さありミステリーとしてのドキドキ感ありで見応えがある。とはいえ、おどろおどろしい絵柄ではないので、怖い話が苦手な人でも入り込みやすい作品だろう。