■人間に変身する動物たちのファンタジー作品『逢魔ヶ刻動物園』
2010年32号では、堀越耕平氏の初連載漫画『逢魔ヶ刻動物園』がスタートした。主人公は、さびれた動物園でバイトすることになった女子高生・蒼井華。呪いによってウサギに変えられてしまった園長・椎名と、閉園時間になると擬人化して歩き回る動物たちとともに、呪いを解く鍵である天下一の動物園を作るという、ファンタジー色の強い作品だ。
全38話という短期間での連載となり、打ち切りを悲しむ声も多く上がっていた「オーマガ」。読者の心を掴んだ要因の一つが、高い画力にある。擬人化した動物たちのハイセンスなデザインや彼らの躍動感溢れる動きの数々、丁寧に描き込まれた背景など、堀越氏はデビュー間もないながら、かなりクオリティの高い作品を描いている。
その後、堀越氏は2014年に『僕のヒーローアカデミア』を連載し、国内はもちろんのこと、世界的な人気を獲得している。ちなみに、こちらの作品にはウワバミやサカマタといった『逢魔ヶ刻動物園』のキャラもヒーローとして登場している。
■超能力×脱出ゲームの新感覚サスペンス『エニグマ』
最後は、2010年41号から連載が始まった榊健滋氏の漫画『enigme【エニグマ】』を見ていこう。同作は、全56話とこれまで紹介してきた2010年周辺の新作漫画の中で最も連載期間が長かった。
主人公は、未来予知ができる「夢日記」という能力を持つ灰葉スミオ。ある日、彼は、謎の存在エニグマによって、自分と同じように特殊能力を持つ6人の高校生とともに体育館に閉じ込められてしまう。
訳も分からないまま「e-test」と呼ばれるゲームに強制参加させられた彼らは、特殊能力を使って脱出を目指していく。さらに、脱出後も外骨島に向かう列車でサバイバルゲームが始まるというシリアスな展開が続いた。
ただ、e-test編が終わると、2011年に伏線を残したまま最終回を迎えている。が、その後『ジャンプNEXT!!』に掲載された「完結編」で伏線を回収し、これが本当の最終回となった。
このほかにも、『食戟のソーマ』の作者・附田祐斗氏の初連載漫画『少年疾駆』など、短期掲載の作品が多かった2010年頃の『週刊少年ジャンプ』。多くの新人に与えられた連載経験が後のヒット作に繋がったのは間違いないだろう。