連載開始から70周年! 手塚治虫『火の鳥』に登場する“子ども心に怖すぎた教訓エピソード”の画像
『火の鳥(望郷編)』第6巻(朝日新聞出版)

 1954年、学童社『漫画少年』で連載がはじまった、“マンガの神様”と称される手塚治虫さんの代表作『火の鳥』。2024年の今年で連載開始から70周年を迎えるが、昭和から平成、令和になった今でも読み継がれる言わずと知れた名作だ。

 本作は不死の鳥である“火の鳥”が、人類とかかわりながら地球の未来や過去を見続ける壮大なストーリーである。“人間の業”をテーマにした作品も多く、罪を犯した人間がその後どのように生きていくかも興味深い。しかし『火の鳥』で描かれる罪人たちに課せられた罪はあまりにも重く、子どものころに読んでショックを受けた人も少なくないはずだ。

 今回はそんな『火の鳥』に登場する、怖すぎた教訓エピソードをいくつか紹介したい。

■尼を殺して一件落着のはずが…永久に続く無限ループが恐ろしい『異形編』

 残虐非道な父を倒すために行動した結果、恐ろしい無限ループに陥る物語がある。それが1981年『マンガ少年』に掲載された『火の鳥 異形編』である。

 領主の娘である左近介は、父から男として生きることを暴力的支配で強制され、武士として育てられてきた。そんな父がやっと病に倒れるも、八百比丘尼という800年を生きる不思議な尼の治療により回復しそうになってしまう。女として生きたい左近介は父を亡き者にすべく、八百比丘尼を斬り殺した。しかしなぜかその尼寺から出ることができず、時が過去に遡っていることを知る。

 そのうち寺には怪我や病気で苦しむ者たちが来て、助けを求めるようになった。左近介は尼に変装して火の鳥の羽を使い、苦しむ人々や妖怪たちまでも助け続け、時が過ぎる。

 ある日、領内の百姓の情報により、自分が世の中に誕生したことを知る。それにより左近介は、以前殺害した八百比丘尼は自分自身のことであり、これから先は今、誕生した自分により殺される運命を知るのであった…。

 人を殺したことにより、あまりにも過酷な運命を背負った左近介。しかも火の鳥のお告げによると、その無限ループは永遠に続くという。残虐非道な父を葬るための行動だったのに、その罪はあまりにも重くないか?とも思ってしまう。ただしどのような人でさえ、人は人を殺してはいけないという教訓なのだろう。

 最後は左近介自身が罪を認め、穏やかな顔で斬られているのが印象的だ。なにより左近介に生涯をかけて尽くした家来の可平だけは、何とか現世に戻れたのが唯一の救いである。

■永遠に死ねない苦しみ…植物になった女性…トラウマ描写が多い『宇宙編』

『火の鳥 宇宙編』は、1969年に雑誌『COM』に発表された作品だ。本作はショッキングなシーンが多いことでも知られる。

 宇宙船で人工冬眠から目覚めた4人の隊員たち。そこで発見したのは、仲間の1人であった牧村隊員のミイラだった。その後、救命ボートで脱出する彼らだったが、死んだはずの牧村のボートもなぜかあとを追ってくる。やがて女性隊員のナナと、猿田、そして牧村のボートは謎の星に到着。そこで猿田はフレミル星人の女性から、牧村の過去を聞くこととなる。

 牧村は過去にフレミル星人のラダと結婚したのだが、徐々に正気を失い最後にラダを打ち殺してしまっていた。しかもその後、牧村が死んだラダに対して取った行動は——まさに重罪と言えるトラウマ級の描写が登場する。

 また永遠に死ねず、老いと若返りを続ける牧村に対し、一生を捧げると決めて植物に変身してしまうナナの姿も非常にインパクトがある。風の吹き荒れる流刑の地で、薄気味悪い大きな植物となって牧村に乳を与える描写はなんともやるせない。

 さらに、ナナを愛し、赤ん坊の牧村を執拗に殺そうとした猿田にも、未来永劫重い罪が課せられる。ショッキングな描写も多い宇宙編だが、今後の人生観にも影響を与えるような重厚なストーリーになっている。

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