■子孫を残すためには仕方ない…!? ずっと子どもを産み続けなくてはならない『望郷編』

 女性のたくましさや、過酷な運命を受け入れる姿が描かれているのが、1976年に『マンガ少年』で掲載された『火の鳥 望郷編』である。

 主人公の少女・ロミは、地球で知り合った恋人のジョージとともに惑星エデン17で新生活をはじめる。しかし事故によりジョージは死亡。1人残されたロミだが、お腹にはジョージとの新しい命が育まれていた。やがてロミはその子を出産し、カインと名づける。

 将来この星で生活するには人口を増やすことが必要だと考えたロミ。人工冬眠をし、やがて青年となったカインとの間に子どもを設ける。しかし、生まれた7人の子どもはすべて男の子であり、ロミは再び人工冬眠をしては目覚めることを繰り返し、子どもを産み続けていくのだ。

 ロミが犯した罪といえば、ジョージが逃避行のため盗み出した十億円を黙認し、地球から脱出したことだろう。しかしジョージ亡きあと自分の子孫を繁栄させるため、冬眠をしながら何度も出産を繰り返す彼女のバイタリティはすごい。自分の子孫を守るために、女性はここまでできるものなのかと考えさせられるストーリーだ。

 その後、ロミの努力を認めた火の鳥が宇宙の不定型生物ムーピーを与え、新しい種族の繁栄に成功している。女王となったロミは安泰な日々を送れるようになるも、やがて地球への望郷が抑えられなくなる……という展開が待ち受けている。

 

『火の鳥』で描かれる作品のほぼすべてには、人の生死や宇宙の生命にかかわる展開が登場する。神秘的で美しい描写も多いが、人類の愚かさや罪と向き合うシーンも多く、そのような場面はショッキングでトラウマになるような恐ろしさがある。

 しかし地球上では今でも戦争や犯罪が多発しており、本作で“罰”とみなされているようなことも実際に起きているのだ。手塚さんの『火の鳥』は、作品を通じて“このままの世の中でいいのか?”という教訓を私たちに与えてくれているように思う。

  1. 1
  2. 2