『マラソンマン』や『神様はサウスポー』にも…スポーツ漫画で息子たちが信じて受け継いだ“偉大な父たちの信念”の画像
週刊少年マガジンコミックス『マラソンマン』第1巻(講談社)

 親がスポーツ選手という少年少女たちにとって、その背中を目指そうと思う人は少なくない。これは漫画の世界でも同様だ。親と同じ競技への道を志すキャラクターも多く、とくに父親の信念を受け継いだ息子の頑張りには、思わず声をあげて応援したくなってしまう。

 そこで、スポーツ漫画において、息子たちが信じて受け継いだ父たちの信念を振り返ってみよう。

■名コーチから日本期待のランナーへ…亡き父の思いを受け継いだ『マラソンマン』高木一馬

 まずは1993年から『週刊少年マガジン』(講談社)で連載された、井上正治氏による『マラソンマン』を紹介したい。陸上競技のなかでもマラソンや駅伝など長距離走をテーマに描かれたスポーツ漫画で、人間ドラマもある名作だ。

 小学3年生の主人公・高木一馬はタクシー運転手をしている父の勝馬と二人暮らし。ボロアパートに住みながら、酒飲みのダメ親父の世話をしていた。

 ただ、実は若かりしころの勝馬は長距離界で期待されていた選手だった。精神的な脆さで陸上から離れていたが、息子のために復帰することを決意。コーチを買って出た一馬と親子二人三脚で見事な復活を遂げ、世界選手権ではマラソン界の新星、マモ・ベラインと対決する。しかし勝馬は世界選手権のゴール直前で心不全を起こし、死んでしまうのだ。

 話は一転し、一馬は高校生に。母に引き取られたのち、日本記録を出すほどのスイマーに成長していた。大好きだった父を奪った陸上から離れていたが、そんなとき“マラソンの皇帝”と呼ばれるまでになっていたマモと思わぬ再会を果たす。マラソンを金儲けの道具としてしか考えていないマモに父を侮辱されて怒りが込み上げた一馬は水泳特待生の境遇を捨て、大学では名門陸上部へ入部するのだ。

 大学陸上部ではDグループという最下層からのスタート。それでも、先輩・阿川のサポートもあって急成長していくのだが、挫けそうになったときに一馬が思い出すのは父の生前の姿だった。

 そうして一馬は大学ナンバーワンのランナーにまで成長していく。仲間の死に直面してまたも陸上から離れたりもするが、最終的には父も走った北海道マラソンにてマモと対決し引導を渡す。独走態勢かと思いきや、阿川との一騎打ちで終わる展開も良かったものだ。

 筆者は小中と少年野球をしていたが、肩を痛めて高校からは陸上部に入り中長距離走に励んでいた。それだけにこの漫画をリアルタイムで見て、感動したものだったな。

■世界チャンピオンを育てる夢を受け継いだ左拳…『神様はサウスポー』早坂弾

週刊少年ジャンプ』(集英社)で1988年から連載された、今泉伸二氏のボクシング漫画『神様はサウスポー』。本作では、純粋な性格の主人公・早坂弾を中心に毎回心を洗われるシーンに泣かされた。

 弾の父はプロボクサーとしては大成しなかったが、トレーナーとして活躍しようと渡米。しかし極貧生活のなか病気になり、幼い弾を残して死んでしまう。

 貧しくても文句一つ言わずに父を応援する幼少期の弾の優しい姿がまた泣ける。その後、修道院に引き取られた弾は父の夢だった世界チャンピオンになるべく日本に戻り、かつて父のライバルだった井上家が経営するジムに所属する。

 井上兄妹の両親はすでに他界していた。ジムの収入は乏しく、プロボクサーの兄・旭は運送業をしながらなんとか食いつないでいる状態だった。弾の突拍子もない行動にやきもきしながらも、やがて兄妹は弾に夢を託すようになっていく。

 また、弾の終生のライバルとして登場する北村友樹も、過酷な幼少期を送っていた。母を亡くし、報道カメラマンだった父も戦場で友樹をかばって銃弾に倒れ、さらに姉とも生き別れに……。壮絶だが、敵も味方もとにかく泣かせてくれるストーリー満載だった。とくに弾と父親のシーンは毎回グッとくる。大人になってから読み返すと涙腺崩壊だ。

 あれだけ極貧の生活で父も志半ばで倒れたなら、普通だったらボクシングが嫌いになってもおかしくはないだろう。それでも亡き父のため、世界チャンピオンを一心に目指すひたむきな弾の姿勢には心を打たれてしまう。

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