いつの頃からか言われるようになった、映画や漫画やアニメにおける「死亡フラグ」。
ある行動をとったり、あるセリフを口にしたりしたら最後……そのキャラクターはごく近い将来に死んでしまうというもので、「この戦いが終わったら結婚するんだ」というセリフは有名なものの一つだろう。1987年公開の映画『プラトーン』で「戦争から帰ったら結婚しようと思ってる」と恋人の写真を見せた兵士が数分後に死ぬシーンがあり、これが元ネタとされているが、この「結婚するんだ」は少年漫画でも数多く描かれてきた。
今回は、「結婚するんだ」を口にしてしまったことによって、悲惨な最後を迎えてしまった少年漫画のキャラたちを紹介していきたい。
■『ジョジョの奇妙な冒険』柱の男の餌食になった兵士
まずは、荒木飛呂彦さんによる『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)から。第2部は柱の男と主人公ジョセフ・ジョースターとの戦いが描かれるエピソードで、一般人がかなり多く巻き込まれることになる。そんな中で、ナチスの若い兵士マルクが犠牲になり、幸せな未来を逃してしまう。
ジョセフは柱の男・サンタナを倒した後、別の柱の男の復活を防ぐためにローマに向かう。そこで案内人としてシーザー・A・ツェペリの友人であるマルクがジョセフと行動をともにすることになった。
マルクは純粋で、いかにも戦いには不向きといったキャラ。恋人の写真が入ったペンダントを首にかけ、「ドイツへ帰ってたら結婚するんス ボクたち」「戦争が始まりそうだし 早く結婚しようって彼女が」と嬉しそうに身の上話をしていた。明らかに、嫌な予感しかない。
ジョセフが柱の男たちの眠る場所へ辿り着くと、ワムウ、エシディシ、カーズが復活し、その場にいた兵士たちを皆殺しにしていた。ジョセフはただならぬ気配に足を止めたが、マルクは気づかず、暗闇の中から現れたワムウと体が接触……。次の瞬間に体の大部分を取り込まれて、崩れ落ちてしまう。「結婚するんス」からここまでわずか9ページ。
助からないと思ったマルクが、泣きながらシーザーに「殺してくれッ!」と懇願する様をジョセフは見守るしかなかった。天国から地獄に突き落とされるとはこのことで、筆者も子ども心にかなり衝撃的だったのを覚えている。
■『るろうに剣心』剣心に斬られた男
続いては、和月伸宏さんによる『るろうに剣心ー明治剣客浪漫譚ー』(集英社)での一幕だ。こちらは実写版映画でもしっかりと描かれたシーンであり、剣心の頬につけられた十字傷の要因になっているため、知っている人も多いはず。雪代巴の婚約者である清里明良と剣心が対峙したエピソードだ。
剣心が維新志士となり、人斬り抜刀斎として恐れられていた頃は、かなり血生臭い日常の連続だった。剣心は平穏な世のために多くの人間を殺すことで、心が死んでいく。
そんな中で彼に殺されたのが京都所司代・重倉十兵衛と、その護衛を任された清里たち京都見廻組。夜道を歩きながら重倉は、「清里が来月にやっと祝言か」と嬉しそうに話す。これを聞いた清里も、巴との未来に「自分だけ幸せになっていいのだろうか?」と胸の内を明かしていた。だが、そこに剣心があらわれ、重倉たちを容赦なく斬り捨て、清里も葬ることになる。
清里の生に対する執念は凄まじく、死に際も「死…死に…たくない…やっと…祝言…なのに…」と呟いていた。しかし、もっと凄かったのが実写版映画での演出だ。窪田正孝さん演じる清里が、何度斬られても立ち上がっていく。その姿はまるでゾンビようで、「死亡フラグ」を回避せんとばかりの、恐ろしいほどの生への執着を感じずにはいられないシーンだった。