■「くやしいけど貴方みたいな男に殺られるのも悪くない」

 バトル漫画においては、敵ながらかっこいい散り方をしたキャラも多い。2001年より『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス)で連載された荒川弘氏による『鋼の錬金術師』の「ラスト」もそうだ。

 ラストは、主人公のエドワード・エルリックらの敵にあたるキャラで、「お父様」によって作られたホムンクルスの中で「色欲」を司るセクシーな女性。作中では「ソラリス」という女性にふんして、軍部のジャン・ハボックと交際し、情報を聞き出そうとしていた。

 結果的にラストは、ロイ・マスタング大佐と交戦し、ホムンクルスの中でもかなり早い段階で退場することとなる。最後までほほ笑みながら「完敗よ くやしいけど貴方みたいな男に殺られるのも悪くない」と散っていくさまはあまりに気高かった。

 そのセリフの節々には、いつも見下していた人間を少し認めているような雰囲気もあった。彼女の活躍をもっと見たかったと思わされる、印象的な最期だったと言えるだろう。

 さて、かっこいい死に様が描かれるのはなにもバトル漫画だけではない。

 2023年に大きな話題を集めた、原作・赤坂アカ氏、作画・横槍メンゴ氏による『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で連載中の漫画『【推しの子】』の1巻で描かれた、物語序盤に登場する絶対的なアイドル・星野アイの死はかなり衝撃的なものだった。

 星野アイは双子を極秘出産し、その後も世の中に気づかれることなくアイドル活動を再開する。しかし20歳の誕生日当日に予定されていたドーム公演の当日、家を訪ねてきたストーカーに刺され、子どもたちの目の前で命を落とすのだ。

 2人に「愛してる」と語り、子どもに弱いところは見せずに最後までアイドルらしく、母親らしく命を落としたアイ。まさしく母は強しといったところだ。

 アニメ版の第1話は90分に渡って拡大放送され、このアイの死までが描かれた。アニメが初見の視聴者にとっては驚くべき内容だったことだろう。

 彼女らの退場シーンは涙なしでは見られない。誰よりかっこいい生き様と散り際は、これからも多くの人の心に残り続けるだろう。

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