■「あなたをそういうふうに育てたつもりよ」
最後は少しこれまでの母親像とは違うタイプだ。『機動戦士Vガンダム』主人公ウッソ・エヴィンの母「ミューラ・ミゲル」である。
ミューラはサナリィの元研究者で、優秀な技術者としてレジスタンス組織「リガ・ミリティア」のモビルスーツ開発において大きく貢献した人物だ。東欧の不法居住区ポイント・カサレリアで家族そろって暮らしていたが、リガ・ミリティアの作戦が本格化したことで、まだ幼いウッソひとりを残して宇宙へと上がった。
そんなミューラを語るうえで外せない点が、ウッソに施した教育が独特だったことだ。
ミューラは「啓示を受けた」という理由から、ウッソのことを特別な存在、つまりニュータイプであると確信していた。そのため幼児期からウッソに対して英才教育を施しており、第30話「母のガンダム」ではまだ8歳のウッソを“両手利き”にするために利き腕ではない右腕でナイフ投げの練習をさせるシーンも描かれている。
ここまでは息子を思っての熱心な教育に思えるが、結果的にこれがウッソの「スペシャル」な才能を開花させ、彼を「戦地に適応」させた。ウッソはある日、たまたまモビルスーツに搭乗することになったが、第6話「戦士のかがやき」では相手パイロットのワタリー・ギラが、Vガンダムの乗り手がまだ子どもだったことを知り、「まだ遊びたい盛りの子どもが……こんなとこで、こんなことをしちゃあいかん! 子どもが戦争をするもんじゃあない。こんなことをしていると、皆おかしくなってしまう」と声を震わせる場面がある。
このようにガンダム世界観においても、子どもが戦争に参加することは非難されること。だが、母はワタリーや前述のカマリア・レイらとはまったく違い、再会に喜ぶウッソからこれまでの戦いのことを聞いて、「あなたをそういうふうに育てたつもりよ。良かった、そういうふうに出来るようになってくれていて」と褒めるのだった。
ミューラはその後、独裁コロニー国家であるザンスカール帝国に人質に取られ、ウッソの目の前で悲劇的な死を遂げる。
愛情はあったのかもしれないし、実際にウッソは強く育った。再会の夜、眠りながら涙を流す息子の肩を抱き、ミューラは、「私たちだって苦しいのよ。けどね、子を育てて、試させてもらっているのよ。ごめんね」と自分に言い聞かせるセリフもある。戦時下ゆえの悲劇だが、13歳という少年のウッソの気持ちを思うと、もう少し暖かな母の愛を見せてあげて欲しかったと願わずにいられない。
1979年の『機動戦士ガンダム』の放送以来、現代まで数多くの作品が作られてきたが、いずれの主人公も個人としてはトラウマだらけの報われない人生を送っている人物ばかり。家族の悩みというのは永遠のテーマなのかもしれない。