『アイアムアヒーロー』に『サマータイムレンダ』ほのぼの漫画かと思ってたのに…“突如のホラー展開”に本気でビビった漫画たちの画像
『アイアムアヒーロー』完全版(小学館)

 おどろおどろしい描写や陰鬱な展開で読者を恐怖に陥れる“ホラー漫画”だが、なかには連載当初のほのぼのした空気から一変、突然の強烈なホラー展開で読者の意表を突く作品も存在する。意外な方向転換で読者をビビらせた、ホラー漫画たちについて見ていこう。

■日常を破壊し尽くす“ZQN”の恐怖…『アイアムアヒーロー』

 我々が何気なく送っている“日常”が突如として崩壊していく喪失感もホラー作品の醍醐味だが、2009年から『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載された花沢健吾氏の『アイアムアヒーロー』も、そんな“非日常”を描いた作品である。

 物語開始当初は、漫画家として再起を目指す主人公・鈴木英雄の冴えない日常が描かれている本作。デビュー作が早々に打ち切られてしまった英雄は漫画家のアシスタントで生計を立てていたが、持ち込み作品はことごとくボツにされ、彼女の黒川徹子からもことあるごとに元カレを引き合いに出されるなど、うだつの上がらない日々を送っていた。

 そんな冴えない男の“日常”は、ある日突然崩壊を迎えることとなる。

 世界中で突如、人々がゾンビのような制御不能状態に陥り、ほかの人間を襲いはじめる奇怪な事件が巻き起こるようになってしまうのだ。奇病に感染した人間は「ZQN」と呼ばれ、噛みつかれることで次から次へとその数を増やしていった。

 英雄の周囲にも着実に「ZQN」の影がちらつくように。彼女も、職場の同僚であった漫画家、アシスタントたちも怪物に変貌していき、混沌としたサバイバル生活を余儀なくされる。

 元漫画家の冴えない日常を描きつつ、その端々で世界が崩壊する糸口が見えてくるのは、なんとも不気味な点だろう。

 各地で起こる謎の“噛みつき事件”や、少しずつ街に増えていく警察官の姿など、全貌の見えない“なにか”がじわじわと世界に忍び寄り、一気に浸食を始めるそのスピード感あふれる展開は、読者に鮮烈な恐怖を植えつける。

 我々が普段生きている社会に、もし「ZQN」が現れてしまったら……そんなことを思わず想像してしまう、リアリティ溢れる一作だ。

■観る者を絡めとる、“不道徳の時間”…『ヒミズ』

 2001年から『週刊ヤングマガジン』(講談社)で連載された古谷実氏の『ヒミズ』は、のちに実写映画化もされた名作ホラー漫画である。

 本作を手掛けた古谷実氏はもともと『行け!稲中卓球部』や『僕といっしょ』といった数々の“ギャグ漫画”を手掛けてきた経歴もあり、『ヒミズ』も連載当初は同様のギャグ路線が展開されるものと予想されていた。しかし本作は、人間の仄暗い部分をこれでもかと鮮烈に描写した、“サスペンスホラー作品”なのである。

 川沿いに住む主人公の中学生・住田祐一は、母親と貸しボート屋を営み生計を立てていた。貧しいながらも平凡な生活を夢見ていた祐一だったが、かつて蒸発したはずの父が戻ってきたことで、その日常は徐々に歪み始めていく。暴力団からの不当な暴力や母親の駆け落ちにより祐一は摩耗していき、ついには衝動的に父を殺害してしまうのだ。

 この殺人をきっかけに、祐一は“悪い奴”を殺すという危険思想に憑りつかれ、夜の街を徘徊するようになっていく。クラスメイトの茶沢景子だけは祐一を闇のなかから救いあげようと奮闘するのだが、祐一はより深く混沌とした“絶望”へと沈んでいくこととなる。

 これまでの作風から一変、人間や彼らが生きる社会の“闇”を徹底的に描いていくそのスタイルに、古谷氏をよく知るファンたちは愕然としたことだろう。

 さらに、「笑いの時代は終わりました…これより、不道徳の時間を始めます。」といった本作のキャッチコピーも、これから始まる非情極まりない物語を予感させる、なんともインパクト大なフレーズとなっている。

 作者が見せたまさかの方向転換に、読み手すらもどん底に突き落とされる一作だ。

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