■日常に溶け込み、こちらをつけ狙う“影”…『サマータイムレンダ』

 2017年よりウェブコミック配信サイトやスマートフォンアプリ『少年ジャンプ+』(集英社)で連載された田中靖規氏の『サマータイムレンダ』は、主人公が“タイムリープ”の力を駆使し、幼馴染の死に隠された謎に迫っていくサスペンス作品だ。

 主人公・網代慎平のもとに突如、幼馴染である小舟潮の訃報が飛び込んでくるのだが、彼女の死には不可解な点も多く、他殺の可能性が浮上。幼馴染の死を追うなか、慎平は生まれ故郷にまつわる“影”の伝承へと迫っていく。

 キャラクターデザインや島の美しい情景が非常に明るい印象を与えてくれる一方で、物語の核ともなってくる“影”の存在が不気味に暗躍し、主人公らに這い寄ってくる。作中に登場する“誰か”の姿を模倣し襲い掛かってくる“影”はなんとも恐ろしく、そして同時に厄介な存在といえるだろう。

 ドッペルゲンガーのようないわゆる“都市伝説”と“タイムリープ”のSF要素が巧みに絡み合うシナリオは、実に骨太で、先が読めない展開に引き込まれた読者も多いだろう。また、物語後半になり“影”の正体や背景が解明されてくると、さらに大きく物語のテイストが変わるのも、本作の見どころの一つだ。

 本作はその人気の高さから、アニメ化などさまざまなメディア展開を続けている。
とくにアニメ版での声優による“影”と影の正体の演じ分けは見事で、姿形が同様の別人という恐怖がより色濃く表現されていたように思う。

 読者や視聴者を終始飽きさせない、まさにジェットコースターのような起伏にとんだ魅力が溢れる一作である。

 

 物語冒頭で描かれる日常が、ウイルスや暴力、怪物といった特異な存在によって“非日常”に染まっていく姿は、観る者におぞましい恐怖を与えてくれる。さまざまな形で“絶望”の姿を描いていくホラー漫画の世界に、どっぷりつかってみてはいかがだろうか。

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