現在、漫画家は一般的に顔出しすることが少ないとされている。しかし昔は逆に顔写真が公開されることは珍しくなく、中にはとある“大物漫画家”たちが映画やドラマに出演することもあった。そこで今回は巨匠たちがさりげなく出演している、映像作品の数々について見ていこう。
■クライマックスに登場する、巨匠の素顔に驚愕…『妖怪大戦争』
2005年に公開された『妖怪大戦争』は、1968年に放映された同名映画に大幅な脚色を加え、新たな時代に合わせ生まれ変わったリメイク作品だ。
ひ弱な都会っ子である少年が、ひょんなことから人々を混乱から救う“麒麟送子”に選ばれ、“妖怪”たちを交えた壮大な戦いに巻き込まれていく。
本作はとにかく出演陣が豪華で、主人公の稲生タダシを若き日の神木隆之介さんが演じており、宮迫博之さんといったお笑い芸人も多数起用されている。
それに加え、登場時間こそわずかなものの、一方で非常に重要な役にとある“大物漫画家”が起用され、彼を良く知るファンたちを驚かせた。数々の“妖怪”漫画を手掛けてきた巨匠・水木しげるさんだ。
ご存知、『ゲゲゲの鬼太郎』でおなじみの漫画家だが、彼は“妖怪大翁”なる名前で妖怪サイドの重要人物として登場している。
妖怪大翁は実質、悪霊軍団の最高実力者ともいえるキャラクターで、妖怪が担いだ神輿の上に巨大な顔が乗った、実に奇抜なデザインをしている。
この“顔”の部分に水木さんの顔をそのまま映像としてはめ込み、タイトルにもなっている“妖怪大戦争”を終結させる、非常に重要な台詞を本人の肉声で視聴者たちに届けたのだ。それはこれぞ“水木しげる節”といえる名言で、観る者の心を震わせた。
ちなみにこの他にも、京極夏彦さん、荒俣宏さん、宮部みゆきさんといった作家陣が出演しており、それぞれの役を演じている。この面々は水木さんも加入している「プロデュースチーム『怪』」のメンバーで、今回の映画製作に携わった人間として、なんと本編にも直接出演していたのだ。
“妖怪”にかかわる作品を多く手掛けてきた大御所が、“妖怪”の総大将とも言えるポジションで登場するという、その絶妙な配役にうならされてしまう一作である。
■唐突に登場し、即座に退場してしまった原作者…『仮面ライダー』
『仮面ライダー』といえば、今なお新たなシリーズが生み出され続けている、日本を代表する特撮ドラマだ。
悪の怪人や組織を相手に、時代ごとの“ライダー”が登場するのが醍醐味となっているが、その初代作品といえば1971年に放映された初代『仮面ライダー』である。本作は漫画家として活躍する石ノ森章太郎さんが原作を担当し、これまでの特撮とは一味違ったリアリティ溢れる人間描写や戦闘シーンで、視聴者たちを虜にしていった。
そんな本作の生みの親ともいえる石ノ森さんだが、実は記念すべきシリーズ初代作品である『仮面ライダー』に、とあるさりげない役回りで登場しているのだ。
その出演回が、1972年に放映された第84話「危うしライダー! イソギンジャガーの地獄罠」である。
イソギンチャクとジャガーの特性を備えた合成怪人・イソギンジャガーが世に放たれ、破壊の限りを尽くしていくのだが、彼は手始めに自分の姿を発見した釣り人を無惨に殺害する。この釣り人こそ、原作者・石ノ森さん本人が演じているのである。
いわゆる“カメオ出演”という形での配役なのだが、視聴者も不意に登場した原作者の姿と、彼の呆気なさすぎる死にざまに驚いたかもしれない。
以降もたびたび、似たような形で作品のどこかにさりげなく登場しており、後に放映された『イナズマン』や『快傑ズバット』では、博士の助手だったり、元プロ野球選手だったりと、状況ごとにさまざまな役柄で姿を現していた。
もともと、漫画執筆だけでなく特撮の原作担当や作品で使われる歌の作詞など、マルチな活躍を見せていたが、自身が手掛けた作品に出演までしていたことに驚かされてしまう。
時期によっては「石森章太郎」名義になっているものもあり、ファンの方は一度、その登場シーンやテロップに注目してみるのも一興かもしれない。