藤子・F・不二雄さんが生み出した『ドラえもん』は、1969年の連載開始以来、世界中の人から愛されている不動の国民的漫画だ。
テレビアニメでは “ぐうたらなのび太を成長させるためにアレコレと世話を焼く、厳しくも優しいドラえもん”というイメージが強いが、原作初期の頃は超辛口発言だったり恐ろしげな発言をしていたりと、なかなかに攻めた一面も見せていた。
今回は、そんな初期のドラえもんが見せたダークな発言を振り返ってみようと思う。
■「じゃまものは消してしまえ」
しょっぱなから穏やかではないが、これは「てんとう虫コミックス」15巻に収録された「どくさいスイッチ」の中でドラえもんが発したセリフだ。どくさいスイッチは、スイッチを押すだけで目の前の生物を消せるというアイテム。アニメ化もされているエピソードだが、アニメでは少し語尾が穏やかになっている。
ある日、例のごとくジャイアンから野球の試合のことで激怒され、殴られたのび太。練習しようというドラえもんを無視して「いや、問題はジャイアンだ。ジャイアンさえいなかったら」と呟く。
それに対して「そんな風に考えるの…。じゃやってみる?」とどくさいスイッチを渡し、「じゃまものは消してしまえ。すみごごちのいい世界にしようじゃないか」と言い出すのだった。
ジャイアンたちを消して少し罪悪感も抱いたのび太だが、昼寝で悪夢を見てついに世界中の人間を消してしまう。自由を満喫したのび太だが、次第に「一人でなんて生きていけない…」と孤独に耐えられなくなった。
するとドラえもんが顔をだし、「気に入らないからと次々消すときりがなくなる」と諭すのだった。ドラえもんは、根本的な努力をせず気に入らない相手に消えてほしいと考えるのび太に、行動を通じてお灸をすえたのである。
最終的には元に戻るが、ゲームのように簡単に人間を消してしまうこのアイテム、そしてドラえもんの「じゃまものは消してしまえ」という発言に怖さを覚えた読者もいたのではないだろうか。
■「男は顔じゃないぞ!中身だぞ!!もっとも、君は中身も悪いけど…。」
多くの人が言われたくないであろう辛辣なこの言葉が登場したのは、「てんとう虫コミックス」8巻収録の「消しゴムでノッペラボウ」だ。
絵がうまいクラスメイト・五郎の描いたイケメンな男の子を静香が褒めたことに嫉妬し、イラストのイケメンと自分が似ても似つかないと落ち込こむのび太に、ドラえもんが放ったキツイ一言が「男は顔じゃないぞ!中身だぞ!!もっとも、君は中身も悪いけど…。」というものである。
励ましているようで相手を全否定をするという高度な煽り文句だが、ドラえもんのこういった辛辣な一面もまた面白さを引き立てていた。その後ドラえもんは、怒ったのび太に「取り消しゴムと目鼻ペン」を出し、顔を想い通りのイケメンに書き換えてしまえばいいとアドバイスする。
顔のパーツを消して書き直すというシンプルなアイテムだが、絵心がないと使いこなすのは難しく、さらにジャイアンたちとすったもんだしたせいでいつものメンバーは皆のっぺらぼうになってしまう。
「きこりの泉」で描かれたきれいなジャイアンはネタとしても有名だが、新アニメではキラキラ顔ののび太の姿も見られる、レアなエピソードと言えるだろう。