よりにもよってどうしてその人?社長、皮肉屋、魔界の王子、昭和の少女漫画ヒロインが好きになった「面倒すぎる相手」たちの画像
花とゆめCOMICS『ガラスの仮面』第47巻(白泉社)

 少女漫画の魅力はさまざまあるが、ヒロインの恋が素直に成就することはなく、ライバルの登場やいくつもの障害により、読者までも“やきもき”させられることもその一つ。

 たとえば神尾葉子氏の『花より男子』では、ヒロイン・牧野つくしはイジメの首謀者かつ財閥の御曹司・道明寺司と両思いになるが、立場の違いから多くの苦難が二人の恋路をはばんだ。今年7月にアニメ化されヒットした『わたしの幸せな結婚』でも、けなげなヒロイン・斎森美世が嫁いだ相手は、家柄や能力にすぐれた美貌の陸軍少佐・久堂清霞で、彼を愛した美世は異母妹の逆恨みで命の危機にさらされている。

 このように、ヒロインが好きになった相手が突飛な設定であればあるほど二人の愛は困難を極めるもので、これが昭和の少女漫画ともなれば「命がけ」もザラであった。そこで今回は、昭和の少女漫画でヒロインが好きになった「面倒な相手」を筆者の独断でピックアップしたいと思う。

■ぶっきらぼうな不良少年はアラフォー世代の王子様

 最初に紹介するのは、1982年6月より約12年にわたって『りぼん』で連載された池野恋氏による人気作品『ときめきトゥナイト』第一部から。

 本作は“吸血鬼”と“狼女”を両親に持つ少女・江藤蘭世が、人間界の転校先でクラスメイトの不良少年・真壁俊に恋をする物語。真壁は口が悪くぶっきらぼうなキャラクターだが、女手一つで育ててくれた母親に楽をさせるためプロボクサーを目指すなど、時おり意外なやさしさを見せる人物。当時は不良漫画やテレビドラマが人気を集めた時代で、少女漫画においても女の子たちが不良っぽい少年に憧れる描写が多かった。

 そんな真壁は、実は前世が二千年前に魔界から追放された王子・ジャン=カルロという設定。さらに、死神の死亡者リストに名前が載るも、「死亡」ではなく「赤ん坊」へと生まれ変わってしまう。ところが1年足らずで赤ん坊から16歳へと急成長し、幼い自分を敵から守った蘭世に好意を持ったり、以前の不良ぶりは影を潜めるなど設定モリモリである。

 本質はやさしく漢気のある真壁が、女性読者にとって憧れのヒーローであるのは間違いない。とはいえ、口数が少ないうえ彼のやさしさは分かりづらく、そのうえ思わせぶりな言動をしておきながら自ら否定するという面倒なところがあった。当初から真壁に対して「好き」を前面に出す一途な蘭世に比べ、真壁は意味深なそぶりをするも自分の本心を伝えずはぐらかしてばかりだ。作者である池野氏もインタビューで真壁を「万人受けしないタイプ」だと語っている。

 現在放映中のドラマ『セクシー田中さん』で主人公・田中京子が自分のハムスターを「真壁くん」と呼んだシーンが話題となったが、芦原妃名子氏による原作漫画では京子の本棚にはしっかりと『ときめきトゥナイト』が飾られており、さらに「真壁くんはアラフォー世代の王子様」であると熱弁する始末。魔界の王子は間違いなく、40年経った今も多くのファンを魅了し続ける「王子様」であり続けているようだ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3